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第19話(倉木と律)
「律、本屋に寄ってもいい? ちょっと欲しい雑誌があるんだよね」
「いいっすよ。俺トイレ行ってから行きますね」
「うん、雑誌コーナーにいるよ」
「はーい」
律は倉木と別れてトイレに行った。
トイレをすませ、手を洗いながら鏡を見る。
(翔さんはなんで俺に好きとか言うのかな? 今日もめちゃくちゃ優しいし…本当に俺の事好きなのかな?)
鏡の前の自分を見ながら、考えてみた。
(翔さんは男もいけるのか? それともからかいの延長か? それなら、あえて放置でいいのかな?)
「クソッ! 考えてもわかんねえ!」
自問自答をしても答えが出ない律は、考えるのを止めた。
本屋に戻って倉木を探す。
雑誌コーナーにいる倉木を見つけたが、また横に女の子がいる事に気づいた。
(また、逆ナンされたのか? マジであの人モテるんだな?)
声をかけようか悩みながら少し待ってみる。
倉木の横にいる女の子は親しそうに、倉木の腕を触ったり、肩に手を置いたりしている。
(なんで、そんな馴れ馴れしんだ? 翔さんも嫌がってないし…)
その光景を見てると律の心はモヤモヤしてきた。
キューと胸が締め付けられて、なんとも言えない感情が湧き上がってくる。
(クソッ! またかよ。なんなんだよ、俺は)
自分の煮え切らない感情にイライラしながらも、全然話が終わらなさそうなので、近づいて行く事にした。
「翔さん、お待たせ。…こんにちは…」
律は、女の子にペコと頭を下げて挨拶した。
「お友達、戻って来たみたいだから帰るね。翔、またね! 本の件はまたLINEするね」
「うん、気をつけてね」
女の子も、律にペコと頭を下げ帰って行った。
「翔さん、知り合いの子? 」
「うん、元カノだよ。偶然会ってね」
「えっ? あの子が前に言ってた浮気した元カノ?」
「そうだよ」
「えっ? なんであんなに優しいの? 普通ならもっと冷たくしない? 酷い事されたのに!」
律は倉木の態度に納得がいかないようだ。
「もう過ぎた事だし、今はなんとも思ってないからね」
「でも、またLINEするって…」
「ああ、彼女から借りてたままの本があって、それを読みたいから返して欲しいって」
「じゃあ、郵送でもすればいいじゃん! なんでまた、やり取りする必要があんの?」
律はどんどん怒りが湧いてきた。
(なんだよ! あの子! 自分が浮気したのに、シレッと翔さんに甘えて)
「律、ちょっと場所変えようか? ここ本屋さんだし」
律の声が大きくなってきたと思った倉木は、非常階段の方へ誘導した。
「なんで、律がそんなに怒ってるの? もしかして焼きもち焼いたのかな? それなら嬉しいなー」
いつもの様におちゃらけて嬉しそうに話す倉木に、律はイライラが募って、爆発した。
「なんだよ! 翔さんはいつもそんなんばっかりで! なんでそんな冗談ばっかり言って俺をからかうんだよ!俺を困らせて楽しいのか? 好き好き言ったり、俺とデートとか言ったりで、俺を困らせるのはもうやめてくれよ! 」
イライラから、思っていた事を倉木にぶつけてしまった律は、ハッとして倉木の顔を見る。
律の前には悲しそうな顔をしている倉木がいた。
「律、そんな風に思っていたんだね…ごめんね…」
「いや、違くて! そうじゃなくて、言い方間違えた!好きとか、からかうの止めてほしくて…ごめん …」
倉木の悲しそうな顔を見て、自分が言い過ぎた事を反省した。
「ううん、律が謝る事ないよ。俺の態度が嫌だったんだよね? ごめんね、でもからかってないし、俺は冗談も言ってないよ? 意味わかるかな?」
初めて見る倉木の真剣な顔に、律の心臓はバクバクしだした。
「俺の言い方もダメだったね、ごめん。律、俺は本気で律が好きだよ。もちろん恋愛対象として。からかうように見えたのは、律が本気で人に好かれるのを、怖がってたから最初から真剣に行くと、俺も一線引かれると思ってね…。でも、考えが甘かったね、そのやり方で律を傷つけてるとは思わなかったよ、本当にごめんね…」
「でも、知ってて欲しい…」と倉木は律に少し近づいて語りかけた。
「律、俺の思いは真剣だよ。本当に律が好きなんだ。直ぐに否定はせず少し考えて欲しい。それまでは連絡取らず、待ってるよ」
「で、でも俺…」
律は何か言おうとしたが、何も出て来ず黙って俯いた。
「大丈夫、律に断られても、律を責めないし、無視もしないよ。俺は律に幸せになってもらいたいんだ。だから、自分が出した答えに自分を責めないで欲しい」
そう言って、倉木は律のおでこにそっとキスをした。
「じゃあ、俺はこれで帰るね。送ってあげれず、ごめんね」
倉木が帰って行った後、律は非常階段の所に座り込んだ。
(うわー、俺何やってんだ! なんで翔さんに八つ当たりした? 翔さんなんも悪くねえし…)
頭をグシャグシャしながら、自分に文句を言う。
(クソッ! クソッ! クソーッ!!)
一通り怒りを爆発させて落ち着いた律は、
「はぁー、何やってるんだろ、俺…」
(翔さんを傷つけたな…どうしたらいんだ? 翔さんは俺が好きって言ってくれたけど、俺は…)
続きが出てこない、どうしても過去のトラウマから恋愛に真正面から向き合うのが怖くて、考えが出てこない律だった。
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