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第20話(雪の家に入る斉川)
「送ってくれてありがとうございます」
雪のマンションの前まで斉川が送ってくれた。
「ああ…今日はありがとうな」
「全然、僕の買い物にも付き合ってもらったので。それにとても楽しかったです」
「そうか? じゃあ次はどこか遠出でもするかるか?」
「はい!」
嬉しそうに返事をした。
(このままバイバイは寂しいな…)
雪は思い切って、
「和希さん、時間あるなら家寄って行きませんか?」
と、誘った。
「いいのか?」
「はい、誰も居ないので気を使わないでください」
ニコニコ話す雪に、誰も居ないワードに少し顔が固くなる斉川。
雪の無邪気さに、少し戸惑いながらも、大人しく雪と一緒にマンションに入る。
「プリン! ただいまー」
「アンアンアン!」
プリンが嬉しそうに足にまとわりつく。
「プリン、先生だよ」
「雪、先生は止めろ」
「あっ、すいません。プリンに説明してなくて。プリン、和希さんだよ」
改めてプリンに紹介する。
「可愛いな」
斉川の足に近づき抱っこ抱っことせがむプリンを見て顔が綻ぶ。
「和希さん、プリンを触ってる方が幸せそうですよ?」
珍しく、雪が斉川をからかって笑う。
「うるさい、雪の頭も最高だ」
そう言って斉川は、クシャっと雪の頭を撫でた。
雪は恥ずかしそうに笑い「飲み物持って来るので、ソファに座ってて下さい」とその場を離れた。
キッチンに行った雪は今更ながら心臓がバクバクしだした。
(僕、何気なく誘ったけど、誰も居ないんだった!2人っきりだよー、どうしよう? 緊張してきた)
冷静に、冷静にとブツブツ言いながら、コーヒーを持って斉川の所に戻る。
「和希さん、コーヒーどうぞ」
「ああ、ありがとう」
雪はどこに座って良いか分からず立っていると、
「俺だけ座ってるのおかしいだろ?雪も座ってくれ」
斉川は自分の横をポンポン叩いて座るよう促した。
「あ、はい。失礼します」
ちょこんと斉川の横に座る雪。斉川の隣で少し緊張する。
「雪、手を出して」
「えっ? 手ですか?」
「手だ」
「は、はい…」
よく分からないまま、雪は手のひらを斉川の方へ出した。
斉川はその手のひらに、ポケットから出したプレゼント包装された小さな袋を、置いた。
「えっ? 和希さん、これは?」
意味が分からず、自分の手のひらを眺めながら質問した。
「開けてみろ」
斉川に言われて、袋を開けてみると、中には赤と白のミサンガが入っていた。
「えっ? なんで、これが?」
驚いて、斉川の顔を見る。
「お前、さくらのミサンガ見てる時、これも欲しそうにしてたろ? だからお礼にプレゼントしようと思ってな」
「見られてたんですか? 恥ずかしいな…でもさくらちゃん、僕とお揃いみたいで嫌じゃないですかね?」
少し心配そうにする雪に、「ほら」と斉川が自分の足首を見せる。
そこには雪が斉川に似合いそうと手に取っていた、ブラックとグレーのミサンガがあった。
「お前が一緒に手に取ってたから、俺に似合いそうと思ってたのかな? と思ってな。まあ実際このデザインは好きだったから、お揃いにしようと思ってな」
「和希さん…」
雪はなんとも言えない位嬉しい気持ちになった。
(どうしてこの人は、僕の考えてる事が分かるんだろう?)
「ありがとうございます! 本当に嬉しいです! 大事にしますね」
「ミサンガだから、切れる方がいいから程々にな」
「はい、じゃあつけます」
雪はミサンガを足につけようとした。
「アフアフ!」
プリンがおもちゃだと思って、雪の足にまとわりつく。
「うわ! プリンダメだよー、これはおもちゃじゃないよ?」
そんな事は知りませーん、とプリンはお構い無しだ。
「後で、つけますね。プリンに見せちゃうと取られちゃう」
「俺がつけてやるから、足あげろ」
「えっ?わっ!」
斉川は雪の両足を自分の膝の上に乗せた。
「ちょっ、和希さん! 自分でやりますよ!」
「大丈夫だから、大人しくしてろ」
斉川は雪のズボンを少しまくった。
「ほら、付けるから願い事を頭に浮かべろよ」
「えっ? あ、はい!」
(願い事、願い事…)
雪はお祈りポーズをとった。
それを見ながら、斉川は優しく雪の足首にミサンガをつけてあげた。
「ほら、付いたぞ。何を願ったんだ?」
「な、内緒ですよ!和希さんだって言ってないじゃないですか?」
「俺は、雪と一緒に居れるように、って願ったぞ」
あっさり暴露した斉川に、雪は顔が赤くなった。
「和希さん、からかわないで下さい…」
「雪、顔が赤いぞ? 照れてるのか?」
「ち、違いますよ! 部屋が暑くて…て? か、和希さん?」
雪が答え終わる前に、斉川の手が雪の頬を触る。
「!!」
雪は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
斉川の顔を見る雪。
斉川の顔はさっきまでの意地悪な表情ではなく、真剣な顔つきになっている。
(和希さん…)
雪は何か言おうと思ったが斉川の顔を見て黙ってしまった。
斉川は雪の頬を触りながら、雪に近づいていく。
雪はとっさに後ろに体を倒したが、足を斉川の膝の上に乗せたままだったので、そのままソファに倒れこんでしまった。
倒れこんだ雪の上に斉川が覆い被さる形になってしまった。
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