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第7話

 ただ頭の隅で引っかかる。慧ほど何でもこなせる人間ならば自信過剰くらいでも良いはずなのに、「嫌われたくない」と言った。  それはどうして? こんな卒業してしまえばほとんどが連絡もしないような学校に未練はなさそうに見える。  慧はいつでも未来を、自らの将来を案じている。  だとすれば……「医者の家族に嫌われたくない」とか? そう考えれば辻褄が合う。  盲目に勉強しているのは何としてでも医学部に現役で受かり、医師になって家族に認めてもらう為。誰にでも分け隔てない態度なのは、そこにある種の“信仰”がある為。  気さくでひょうきんな医師など居てはいけない。患者一人一人に優しく、真っ直ぐに向かい合えなければいけない。  けれどこの先、激務の中でそんな聖人君主の対応ばかりも難しい。回転率を重視してろくに話も聞かなかったり、診察や処方が投げやりになったり……。  俺も体調が悪いのにそういう医師に当たってしまった時はネットに罵詈雑言を書き込みたいくらいイライラするし、慧は家族の勤務態度で嫌と言うほど知っているだろう。  無意識のうち、そんな相反するプレッシャーたちがのしかかっているのではないか?  慧の私生活を深く覗き見る絶好の機会なのではないか?  我ながら天才的な閃きだった。だけど悪魔の囁きのようにも思えた。

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