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第9話
そう、異常なまでに「良い子ちゃん」なのだ。
慧が目指している医学部の名門大学は、どれも成績は無論のこと、内申点も必要だし……学費も高いし……。
そうして昔から目上に取り繕っているうち、大人の態度というものがこびり付いてしまっているようだと、俺でもわかる。
そんな慧が取り乱すようなハプニングはあるのだろうか?
家のことが心配なのは多少なりともあると思うが……それはこの歳の少年少女なら誰でも悩むだろうに。
「深呼吸するとか、プロの整体のマッサージやツボ押しはしたことないの?」
「そんなのとっくの昔にやってる」
「なら……手のひらに人って三回書いて飲み込むとか……」
「はぁ……これは何かの悪戯か?」
「違う違う! ええっと……」
慧のことは常日頃から観察という名のストーキングをしていたけど、弱みを見せない彼だから、好きなものも嫌いなものもわかる訳がない。
なんか俺、慧の同級生なのに、自分が思っているより何も知らなかったかも。
上辺だけで見ていて……ストーカーすら失格だ。
「橘花さんは……好きなものとか、ないの? 何でもいいんだっ、動物とか風景とか趣味とか……」
「好きなもの……ううん……」
そんなに悩むようなことでもない気がするんだけど。慧にとってはどんな学業より難問みたいだ。
「強いて言えば……水族館とか……海……綺麗な景色は……好きだ」
「うんうん、例えば?」
「……南国のエメラルドグリーンの海に、サラサラの砂とか……映像で見ても癒される……イルカは見た目も鳴き声も可愛いな」
「そうそう……その調子。あっ、目を瞑ってみてよ。より鮮明に想像できるように」
「ああ……そうだな」
心を乱すどころか安定させてどうする。でも、まずはこちらを信用させないことにはどうしようもない。
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