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第16話

 慧の家は徒歩で行ける距離だったが、路地に入るたびに違う意味で緊張する。  金銭感覚だけは平凡な自分でも、「高っけぇー」と独り言がこぼれてしまうほどの高級住宅地だからだ。  なんというか、さすが慧。  クラスメイトだし、何よりエロいから忘れそうになるが、医者家庭なんだよな。それも父方が先祖代々って……かなりの規模だ。 「さ、着いた。ほら上がって」 「ひえぇ……」  立派な門構えのそこは、築年数は古そうなもののそれこそ時代を感じられるような一戸建てだった。慧が鍵を開け、玄関のドアを開いて手招きする。  玄関もそこから見えるリビングなどの景色も眩暈がしそうなほど豪華で、ついお上品に振る舞ってしまう。  自宅では靴なんて脱ぎっぱなしなのに、きちんと揃えて向きを直したり。  出されたスリッパさえそーっと履いて、「お邪魔します」と声高に一礼したり。 「あはは、誰も居ないからそんなに気にしなくても」 「え、でも、お母さんとかは?」 「ん? 言わなかったか?」  しくった。親友設定なら、相手の家庭環境くらい知っていて当たり前だろう。 「さ、最近忙しくてお互いの家とか来れなかったろ……だから……みんな、どうしてるのかなって」 「……そういえば、僕も悠太の家に行った記憶が……ううん……長期休みも僕は勉強漬けだし、それくらいに忙しかったんだろうな。こちらこそご挨拶があまりできずすまない」 「い、いやいや! うちはお構いなく!」  ギリギリセーフだろうか……。しかしこれで少しわかったことがある。  催眠時に「親友である」「下の名前、タメ口で話す」などと刷り込んだ記憶の保持は日常でもできているが、例えばセックスをした、という強すぎる衝撃は脳が耐えられないのか、すっぽり抜け落ちている。  もっとも、最初の慧のようにどう考えても情事の余韻があった場合は、混乱して詰め寄って来たりもするだろうが。

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