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第44話

「待ってくれ……悠太! 悠太っ!!」  しかしそれを制したのは他でもない、慧だった。  足元に縋り付き、興奮した俺を必死に宥めようとしている。 「僕は悠太が好きだ……愛してるんだ……これは真実だ……! 悠太の魅力は僕だけが知っていればいい。頼むから僕の気持ちまで否定しないでくれ……そんなことをされたら、嘘を吐かれるより何倍も傷付くっ……」  大粒の涙を流し、目を腫らせて見上げてくる慧。  こんな弱くて人間らしい慧も、俺しか知らない部分かもしれない。  それを慧は恥も外聞も捨て去って俺なんかに見せてくれている。  ただ振ったり振られる方が、嘘を吐かれるより何倍もマシ、か。  普通の恋愛というものをしたことがなかった俺には、すごく難解な問題だ。  でも慧だって、見た目や性格、家柄などで幼い頃からたくさんモテてきたはずだ。  最初に聞いたショタコン野郎にだって、目を付けられるほど昔から可愛かったんだろうし、俺だって……そうするほどの外見だけではない魅力があったからこそ、アプリを使うのは慧にしようと決めた。  わかんない。慧の気持ち全然わかんないよ。  自己肯定感が低いからと言われればそれまでだけど、どうしてあの慧がそこまで俺なんかにこだわるのか。  愛って何なんだよ。俺みたいな性的欲求の塊とは違うのかよ。  でも、慧の悲壮な顔を見つめ続けていると、何故だか胸の奥が苦しくなる。  慧、慧、慧。  俺は……最低だ。だから最後に腹を割って謝りたい。 「慧、ごめん……。俺っ、自分でもわかってるくらい気色悪い陰キャだから、毎日慧を見つめてたり、話しかけてもらえた時なんかは舞い上がるくらい嬉しくって……つい、こんな胡散臭いものにまで頼って……めちゃくちゃハート弱いよな……。ごめんっ、本当にごめんなさいっ……」  膝から崩れ落ちて震えながら嗚咽する俺を、慧は黙って抱き締め、幼子にするように頭や背をさすってくれた。  こんな時にまで優しすぎる。具合が悪い訳じゃないんだから、放置しても良いのに。  不思議と安堵してしまう包容力……大好きなのそういうとこだぞ、慧。

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