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第45話

 年甲斐もなく散々に泣き晴らして、鼻水さえ垂らしていたら、やっぱり完璧人間な慧はポケットティッシュを渡してきた。  ここはもう甘えて思いっ切り鼻を啜ることにする。言いたいこと言えて、感情も爆発させられて、勝手だけど少しすっきりした。 「……なぁ、さっきの続き、しないか? 中途半端だろ……悠太も……僕も」 「え……でも、もう催眠アプリは」 「そんなものなくたって、僕は悠太と……そういうことを……せ、セックスをしたい。セフレじゃなくて……正式に恋人になってくれるなら……だが……」 「…………恋人とは」 「う、浮気しないように……?」 「する訳ねーだろ! 俺は慧一筋だよ! けど、まあ……そういう既成事実が欲しいって言うなら……」  困惑している間に、慧の顔が迫っている。  ああ、やはり同性なのにも関わらずすごく綺麗だ。  肌は日焼けをしていないから雪のように白く、吹き出物の一つもないし、髭も伸びるのが遅いのか毛穴も目立たなくて、化粧でもしているような艶とハリがある。  うっすら閉じたまつ毛は長くて、鼻もツンと高くて、そうと言われれば映画やテレビで観るような顔面国宝級の俳優にしか見えない。  そうして、俺は恐る恐る果実のような朱い唇に触れた。  思えば、催眠以外で自分から慧にアクションを起こすことなんてしていなかった。  元々は小心者なのを、催眠のせいで気が大きくなって忘れかけていた。 「ん、ん……悠太」 「へ……うわ、わわっ!?」  それこそ俺の短い人生であまり触れたことがない、女子がキュンとくるらしい「青春恋愛モノ」のワンシーンのように、慧が唇を重ねたまま肩に両腕を回してくる。  いきなり舌を入れたりはしないけれど、最初に死ぬホラー洋画のパリピカップルのソレみたいには、何度も何度も、濃厚に口付け合った。  いや、俺達の場合はバケモン倒してようやく結ばれる、主人公とヒロインが理想だけど……。

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