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第49話

 こうしてからかってるだけじゃないか、ある種の復讐のつもりなんじゃとすら思わなくもないけど、もちろん慧は百二十パーセントそんな卑劣な手口は使わないとわかっている。 「あ、あの……さ。慧!」  だからそう、以前は他人のことだからと投げやりになっていた問題を、恋人特権で首を突っ込んでみる。 「慧は……将来のこと、今のこと、ちゃんと家の人と相談してるの? そ、そりゃあ勉強に手に付かなくなった、ってのが俺のせいなのはもっともだし、謝るけど! 家庭が冷えてるから俺と一緒に居たいとか……そういうのは……ちょっと違うと思う」  俺としてはもう決死の思いで言い切ったにも関わらず、慧は意外や意外にけろっとして。 「ああ……まあ、家族仲については悠太も心配するだろうから努力はしてみるが。勉強のことならもう気にしなくていいぞ。むしろ上手くできない原因がわかって、より一層励む気になった。次の期末はオールA、模試もA判定を出してみせるさ」 「そのいきなりの強気は何なの」 「それは、やはり僕なりに悠太のことが気になって……医大は医大でもどうにか近くでばったり会える距離の所では駄目か、吟味していたから」  お、俺の存在はそんなにも人生かかった天秤に乗せていいものじゃないぞ……。  彼の覚悟は理解したものの、思ったより重くて、俺が慧しか目に入らないくらい見ていたほど慧も俺のことを気にかけていたことが嬉しくて、はにかんでしまう。 「でも……こうしてお互い恋愛感情を持っているとしっかり確認できたなら、卒業してからも連絡も取れるし、会うことだってできる。君さえ良ければ、だが」 「あ、当たり前だろ! どうせ俺の成績で行けるような大学なんて大したことないから暇も暇だし、毎日様子見に行ってもいい?」 「それは先方の学校にも悠太にとっても良くない。……そうだ、この際僕というコネで医療系のライターのバイトでもしたらどうだ?」 「バイト……いやいや、俺はオカルト専門で……それは慧もよく知ってるはずだろ?」 「だから催眠療法なんてのもやってくれたんだろう? 傍から見たらきちんとした医療行為じゃないか。未確認の超常現象と、目の前の患者を救う医療、この二つが合わさったら未知の病気に対抗する知見も増えるかもしれない」 「……そ、そうかなぁ……慧が言うんならそうかも……」  なんか自らの将来まで議論することになってしまったけれど、俺は確かに元々ライター志望だ。  それも今思えば、シャルルこと慧にだけは話している夢で。

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