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第38話 最終章 花は咲く

 結婚式当日の朝、北畠家は二手に分かれての行動になる。  高久は空港まで尚久を迎えに行き、そのまま式場に直行。雪哉は、準備のある主役二人と共に式場入りすることになる。 「結惟はどうするんだ?」 「勿論、ママたちと一緒よ。決まってるじゃない」  そんなわけで、全員感慨に耽る間もなく、慌ただしく家を出ることになった。 「うわあ~きれい! 凄く似合ってるよ!」 「ほんとだな~蒼の雰囲気にぴったりだ!」  ホワイトのモーニングコートを身に着けた蒼を、雪哉と結惟が、眼を輝かせて褒めたたえる。褒められた蒼は、恥ずかし気にほんのりと頬を染めて、それがまた初々しい。 「お兄ちゃんのはシルバーなの?」 「そうなんだ。全く同じより、その方が映えるからって」 「そうねその方がしっくりくるし、そうなるとあお君がホワイトよね、ウエディングドレスよりもきれいよ! 凄く豪華!」  白いモーニングコートは、気品がありそして清楚で、蒼の美しさを引き立たせている。結惟が言うように、ウエディングドレスの花嫁よりも、はるかに美しいと思えた。  そこへノックがして、係員が出ると、高久だった。遠慮がちに入っていいかと聞いてから入ってきて、続いて尚久も入ってきた。 「あっ! なお君! うわあ~大きくなって」 「五年ぶりだからね、僕も成人はしたからね。あお君凄くきれいだ!」 「なお君……ありがとう」  はにかみながら言うのが、初々しくて、いかにも新郎というか、新婦の風情だ。 「あき君には会ったの?」 「うん、兄さんの方の控室で着替えたから。それで、一刻も早くあお君に会いたくてね。兄さんは、お前はこっちにいろって言ったけど、父さんはあお君の後見者だろ。だったら僕はその息子だから、こちら側にいてもいいよねと思って」 「お前たちは、蒼が大好きだからなあ。結局彰久のほうには誰もいないのか、それもちょっと淋しいなあ」  雪哉の言葉に、蒼は僕が行かないとかわいそうな気持ちになる。 「ぼ、僕があき君のほうに……」 「いやいやっ! あお君はここにいないと!」  彰久の控室に行こうとする蒼を、全員が慌てて止める。 「まったく! 相変わらず蒼は彰久に甘いな、子供じゃないから大丈夫だよ。係員も付いているし」 「そうだよ、それにあと少しでこんなきれいなあお君独り占めなんだから、今は少々淋しくてもいいよ」 「そうだな、これほどきれいな蒼とバージンロードを歩くのは誇らしいが、彰久に渡しがたくなるなあ」 「まあ、あなたまで。でもほんとそうだよ、きれいだよ、蒼」  皆が褒めてくれるのが、心から嬉しい。そして温かい気持ちになる。蒼は、今朝言いそびれたことを言うのは今だと思い、意を決した。 「と、父さん……か、母さん今まで本当にありがとうございました。こうして、この日を迎えることができたのは……お二人のおかげです。感謝の気持ちでいっぱいです。……不束者ですが、これからもよろしくお願いいたします」  途中つかえながらも、言うことができた。蒼は、感謝の気持ちを込めて、二人に頭を下げた。 「――蒼!」  雪哉は蒼を抱きしめる。その二人を高久が包み込むようにした。親鳥がひなを守るように。蒼も北畠家の立派な一員、家長の高久にとって庇護する対象なのだ。  二人に抱きしめられて、蒼は新しい父と母の優しさと温もりを感じた。そして心からの幸せを感じた。  その後吉沢家族も顔を出して、暫し賑やかな時をもったが、そろそろ時間ということになり、蒼と高久、雪哉以外は会場入りした。

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