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第44話 番外編 陽だまりの中で

  「バリで買って来た猫、可愛いな。母さんのとは別に買って来て良かった」  可愛さに惹かれて、雪哉への土産とは別に自分のも買ったのだ。ベッドのサイドテーブルに置いている。 「うん、母さんへの土産とはまた違って、これも可愛いね。でもあお君には負けるよ。あお君が子猫のように甘えてくると僕はたまらないよ」  甘えている自覚はあるけど、子猫みたいって……恥ずかしい。そんなふうに甘えているのか……。 「ねえ、にゃーって言ってみて、もっと可愛いと思うよ。どんな可愛いものが束でかかってきても、負けないくらい最強に可愛いと思うんだ」 「なっ! 何言いてるの!」  何を求めているんだ、いくら何でもそれは無い。 「ねえ、一回でいいから、言ってみて……ねっ」  彰久が甘い顔で強請る。その瞳は、期待できらきらと光る。蒼はこの瞳で見つめられると弱い。何でも聞いてやりたくなる。彰久が幼い頃からそうだった。雪哉が、蒼は彰久に甘すぎると言う故だ。 「に……にゃ~」  その瞬間彰久が蒼に抱きつく。 「うわっ! だめっ! やばい!」 「だっ、だめって……」 「いやいやっ、いいんだ、いいんだよ! あんまり可愛いから」  むしゃぶりつくと言う感じで、ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。なんて可愛いいんだ! この人は! 可愛すぎる、本当にやばい。自分で振っておいて、まさか本当に言ってくれるとは思わなかった。  言った蒼は、さすがに恥ずかしすぎて、彰久の胸に顔を埋める。その仕種が可愛さを増していることには、無論気付いていない。彰久にはそこがまたたまらない。もっともっと甘えて欲しい。 「なんか、まだたった一週間なのに、僕はあき君に甘えているよね」 「いいじゃない、番になって結婚したんだから、もっと甘えてもいいくらいだよ」 「だめだよ、さすがにシャキッとしないと、病院へ行けなくなる」 「僕的にはそれでもいいけど、あお君のことだから、病院行ったらしっかりした蒼先生になるんだろうなあ」  実際未だ結婚休暇と言えど、蒼が甘えるのは彰久と二人だけの時だ。両親だけの時は若干気を許すようだが,それでもあからさまに甘えることはない。  この年上の美しい人が、子猫か小鳥が親に甘えるように、甘えてくるのはたまらない気持ちになる。可愛い! それこそ全身舐めまわしたいほど可愛い。いや、実際ベッドの中では蒼の全身を舐めるように愛撫する。  その滑らかで白い肌が、徐々に色付き、汗ばむさまは、彰久を至福の居地に導く。世の中にこれほど愛おしい存在があるのだろうか……。正にこれが運命の番なんだろう。 「あお君、愛しているよ。僕のオメガ、僕が守るよ。生涯かけて幸せにするよ」 「うん、ありがと。もう幸せだよ。あき君のオメガになれて良かった。僕は生まれてきて良かったと心から思える。それは、あき君のおかげだよ」 「もっと、もっと幸せにするから。ずっとそばにいて」  愛し合う二人の甘い睦言は続く。結ばれるまでに長い時を要しただけに、それを埋めるようにお互いに求めあう。それは至極自然なことでもあると、神も祝福しているように、二人を包む空気も甘く温かい。

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