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第45話 番外編 陽だまりの中で

 結婚から三ヶ月が過ぎた。夏の暑いさなか、病院では蒼先生として、忙しくも充実した生活だった。今や、小児科のトップとしてだけでなく、副院長である雪哉の片腕としての存在感は、誰もが認めるものだった。  いつものように五人で囲む朝食の時だった。 「あお君、食事残すの?」 「うん、ごめんなさい……夏バテかな、ちょっと食欲がなくて」  細身だが、食事を残すことはない蒼が珍しく残すのを、彰久が心配げに問うのへ蒼は応えた。事実、ここ最近食欲が落ち、体も少し熱っぽい。夏バテから、軽い夏風邪もひているのかも? と思った。 「蒼、今日はオメガ外来を受診しなさい。君は医者と言えど小児科が専門だ。自己判断で風邪薬など飲む前に専門医へ診てもらいなさい」  珍しく、雪哉が断定口調で言う。こういう時の雪哉に逆らうことはできない。 「はい分かりました。では、午後に予約を取ります」 「なんだ、母さん何しているの?」 「母さんじゃない。病院では副院長だ」 「副院長ここでは何を?」 「蒼が予約をとったと聞いたから、様子を見に来た」  思いっきり私事じゃないか、と思ったが自分も心配で来たのでそれは言えない。 「何か、あお君、蒼先生の体に心配なことが?」 「まあ……だから受診しろと言った」  やっぱり母は何か気付いている。彰久には今朝の母の口調が気になったのだ。だから心配で彰久も抜け出してきた。無論、上医の許可はとった。と、そこへ蒼がやってきて、二人の姿に驚く。 「えっ、二人して何?」 「まあ、ちょっとな。蒼は診察を受けてきなさい」  なんとなく、納得いかな気ではあるが、丁度そこで呼ばれたこともあり、蒼は診察室へ入った。 「腹部エコーの検査をしますね。」  一通りの検査が済んだ後、オメガ科の高橋医師が言う。高橋は、アルファの女医だ。蒼は頷いた。 「先生方にも入ってもらって」  高橋が、看護師に言ったので驚く。えっ、あき君と母さん、まだいたの? なんだろう。  二人が入ってくる。雪哉は余裕の表情だが、彰久の表情は硬い。蒼のことが心配なのだ。 「では、見ますよ。先生方もご覧ください」  食い入るように画面を見る二人。 「おおっ! 出来ているな!」  雪哉が声を上げると、彰久も身を乗り出して見る。 「ほんとだ! 出来てる!」と叫ぶように言う。 「はい、間違いありません。おめでとうございます!」  出来ている! 二人の愛の結晶が! 蒼の不調は妊娠によるものだったのだ。それを、自分の経験から雪哉は直ぐに見て取った。妊娠なら、風邪薬など飲まない方がいい。だから、受診を急がせた。  蒼は、彰久に腕を握られ、それを握り返しながら涙を溢れさせた。嬉しい。心から嬉しかった。結婚後、子供のことを話し合った時、自然に任せたいと言った。しかし、多分それは難しいだろうと思っていた。三十代後半になっての自然妊娠はかなり少ない。それが現実なことは、医者としてよく分かっている。  もし、授かったらそれは奇跡に近い。そう思っていた。それが、結婚後未だ三ヶ月で授かるとは、天に感謝する。そう、心から思った。

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