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第6話(湊翔と裕二)

「おい、蒼。学食行こうぜ」 講義が終わり友樹が声をかけてきた。 「ああ、実はアイツと食べる約束してるんだ。一緒に来てくれ」 「アイツって、平の事か? 」 「ああ、昨日の夜誘われて、台本読むのと交換条件にOKした」 蒼の言葉に友樹はニヤニヤしながら、腕を蒼の肩に回す。 「なんだよ、重いぜ」 「お前、イヤイヤ言っときながら、優しいじゃないか? 平は2人の方が良いじゃないのか? 俺と裕二は別で食べるよ。なっ、裕二? 」 前の席にいた裕二が蒼達の所に来ていた。 「友樹、蒼はいやなんだろ? 一緒に行ってやろうぜ」 「えー、俺平に邪魔者扱いされるのヤダよ! 」 蒼は、肩に回された友樹の腕を払い肩をパタパタと叩く。 「全く、お前は重いな。いいぜ、友樹は来なくて。俺と裕二だけで行ってくるから。残念だな、山下さんも来るって言ってたのに」 蒼の言葉に友樹は慌てた。 「待て待て待て! 今なんて? 佳奈ちゃんも来るのか? 」 「お前いつから佳奈ちゃんになったんだよ! 図々しい奴だな。ああ、山下さんと秋山も連れて来るって…おい! 」 蒼が言い終わる前に蒼の肩をもう一度抱き、食堂に促す。 「佳奈ちゃんが来てるなら話は別だ。蒼の為にも一緒に行ってやろうぜ、裕二! 」 「俺は最初から行くって言ってるぞ…」 裕二はヤレヤレと首を振りながら後ろを着いて行く。 「おい、佳奈ちゃんはまだか? 」 食堂の席に着くなり、友樹はソワソワしている。 「おい、落ち着け。ここの食堂は、医学部からは少し距離があるだろ? もう少しだ」 南東大学に食堂は3つある。広いので、皆近くの食堂で食べるが、医学部の学生がここの食堂に来る事は余りない。 (あの3人がここに来たら、凄い事になりそうだけど大丈夫かな? ) 蒼の予想は的中した。少し遠くの方からザワザワと賑やかな音がする。 「来たんじゃないのな? 」 裕二の声に食堂の入口の方に目をやる。 すると、3人がちょうど入って来た。 『キャー!!! 』 食堂内にいる女子が悲鳴をあげる。 「えっ? あの人達、ミスコンのグランプリよね? めっちゃかっこいい! 」 「ホントだ! まじでイケメンじゃん! ミスの子もちょー顔ちっちゃい! 」 「なんで、ここの食堂に? 医学部から遠いよね? 」 見守る女子の横を通りながら、湊翔達は蒼のテーブルに近づいて行く。 取り巻いてた女子達は湊翔達の目的が分かり益々悲鳴を上げた。 「やっぱり、アソコよ! 昨日の人よ! 」 「演劇部部長だっけ? 」 「そう! 昨日公開告白したよの! 」 「あの人なのね! 確かに可愛らしい先輩ね! 」 女子達のざわめきなど気にならない湊翔は、蒼を見つけるとニッコリと笑った。 「先輩、お待たせしました」 湊翔の横に座りながら笑顔を見せる。 「あ、ああ、大丈夫だ…」 (クソッ! 間近で見てもイケメンじゃないか! しかも無駄に近い…) 「先輩、何頼んだんですか? 」 「唐揚げ定食だよ、お前も何か持って来いよ」 「分かりました。陸、行くぞ。佳奈は何がいい? 」 「私はパスタでお願い」 「了解、取ってくる」 「ありがとう」 テーブルに佳奈1人が残された。友樹がすかさず話しかける。 「ねえねえ、佳奈ちゃん」 その呼び方に、佳奈はニッコリ笑って 「先輩、まだ仲良くないので名前で呼ぶのは止めて下さい」 と言った。 「そ、そうか、ごめんね。でも仲良くなったら呼んでいいの? 」 全然めげずに友樹が食らいつく。 (コイツ凄いな。全然めげてない…) 呆れ顔の蒼を佳奈が見て謝った。 「栗城先輩すいません、湊翔が強引に誘って」 友樹と全然対応が違う。 「だ、大丈夫だよ。むしろ山下さんもこっちの食堂に来て貰って悪かったね」 「平気ですよ。いい運動です。それに友達の恋の応援ですから」 ニッコリ笑う佳奈の笑顔に、周りの男子学生達はメロメロになっている。 みんな蒼に感謝していた。 普通なら医学部の彼女がここの食堂に顔を出すことはない。 蒼のお陰で、彼女を拝めるのだ。 湊翔に頑張ってもらいたいと皆思っていた。 「お待たせしました」 湊翔と陸が戻ってきた。湊翔は蒼の隣に座る。 陸は少しテーブルを見ていたが、裕二の隣に座った。 「先輩、ここいいですか? 」 「ああ」 裕二は特に気にした様子もなく頷いた。 その様子を見ていた佳奈は心の中で微笑んだ。 (陸、種谷先輩を気に入ったみたいね。余り他の人に懐かないのに、楽しみだわ。湊翔も上手くいってほしいし。その間はこのうるさい先輩の事も我慢してあげるか) 佳奈の前では相変わらず、友樹が何か言っている。 佳奈は笑顔で対応し、話は右から左に聞き流していた。 (本当によく話すわね。顔自体はそんな悪くないのに、残念な先輩だわ) 「先輩、俺のトンカツ食べますか? 」 湊翔が蒼に聞いた。 「くれるのか? じゃあ1つくれ」 「いいですよ、はい」 そう言うと、湊翔は自分の箸でトンカツを挟み蒼の口元に持って行った。 「お、おい! さ、皿に置いてくれ」 アーンの体制を取られ焦る。 「このまま食べてくれないんですか? 」 「いやいや、恥ずかしいだら? やめろよ! 」 「恥ずかしがる先輩も可愛いですね」 ニコニコしながら、嬉しそうな顔をする。 更にアーンと蒼にトンカツを近づけようとしたら、裕二が湊翔の手首を掴んだ。 「平、やめろ。蒼が嫌がってるだろ? 口説くのはいいが、嫌がる事はやめろ」 裕二はそのまま湊翔の腕を下げ、トンカツを皿に置かせた。 「ほら、蒼。食べな」 「あ、ああ、裕二ありがとう」 「ん」 裕二は頷くと何事も無かったように自分のご飯を食べ始めた。

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