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第8話(誤解)

「ねえ、もう少し考えて見てよ。平君が取ってるゼミって八代教授のよね? あの人より私の方が絶対いいわよ」 「いいって…これの事ですか? 」 「そうよ、私のゼミの方が大学的にも押してくれてるし。私と一緒だと、色々な学会に行けるわよ。顔を売るチャンスじゃない。それに…」 グッと体を湊翔に押し付け顔を近づける。 「近いですよ」 「知ってるわよ。本当はこうしたいんでしょ? 私の講義中チラチラ見てたの気づいてるから」 勘違いも程がある。見ていたのではなく見られていたから見返しただけだ。 湊翔は呆れながらも、抵抗しない。それをOKだと思った横山は湊翔の首筋にキスをした。 「やめてください。セクハラですよ。キスしないで下さい」 「嫌がってないじゃない」 「嫌ですよ、このままやめて下されば誰にも言いませんので」 「そんな、私に気があるんでしょ? 」 どこをどうしたら、そんな勘違いをするのだろうか?疑問に思いながらも湊翔は首に回ってる横山の腕を外す。 「二度としないで下さい。失礼します」 そう言うと湊翔は素早く部屋を出て行く。 部屋の中では横山が舌打ちをしていた。 「なによ、あの子! 私の誘いを断って!」 自分の体が使えない事に悔しがる。だいたい気にいった男は自分から誘えばコロッと落ちてくる。 今回のターゲットは湊翔だ。最初見た時から横山のタイプだった。 「あんなカッコイイ子を平伏したら最高に気持ちいいわよね。絶対手に入れて見せるわ! 」 __________________ 「アイツ遅いな…」 蒼は携帯の時間を見て呟く。もしかしてこのままこないつもりなのか? 携帯の着信履歴を見て湊翔に電話しようか迷っている。 「ここで俺が電話したら、いかにも待っているみたいだよな? それはおかしいぞ。でも、もし何かあったら…」 1人でモヤモヤしながら携帯を見てると、部室のドアが空き湊翔が入ってきた。 「先輩遅くなってすいません」 「本当だぞ! 何かあったか心配したぞ。連絡くらいしろ」 「あれ? 先輩、俺の事心配してくれたんですか? 」 嬉しそうに近づいて来て覗き込む。 (しまった! 言うつもり無かったのに、俺のバカ) 「い、いや、まだ1年だから道に迷ったのかと…だから近いって」 湊翔が顔の傍まで来て困って目線を泳がす。 その時、湊翔の首筋に赤いのがあるのに気づいた。 (これって…えっ? 口紅か! コイツ、俺を待たせて女の子とイチャイチャしてたのか! ) 急に怒りが込み上げてきて、グイッと湊翔を押しのける。 「お前、それが理由で遅れたのか? 最低な奴だな! 」 急に怒り出した蒼に、湊翔は首を傾げる。蒼は湊翔の首筋を指差して更に文句を言った。 「それだよそれ! 首筋の赤いの口紅だろ? 女の子とイチャイチャしてたって事じゃないか! お前、俺を口説くってのもやっぱ冗談だったんだな! 信じて損したわ! 」 蒼の怒りの言葉に湊翔は嬉しそうに笑っていた。 蒼は何がおかしいのか分からず益々イライラしてきた。 「もういい! お前に頼むのやめた! 俺は帰る! 」 捨て台詞を吐いて荷物をまとめだした。 急に後ろから抱き締められる。 「おい、どけよ! 」 「先輩、落ち着いて下さい。説明しますから」 「いいよ、説明なんて! 離れろ」 「嫌です。誤解されたままだと、俺が困るので」 「誤解って、口紅じゃないのか? 」 「口紅は口紅です」 「ほら、やっぱり…」 「先輩、とりあえずこれを聞いて下さい」 湊翔は蒼を抱き締めたまま、ポッケから携帯を出し再生ボタンを押した。 《やめてください。セクハラですよ。キスしないで下さい》 「えっ? これって…」 驚いて顔を上げて湊翔を見た。 「分かりましたか? キスされましたが不本意です」 「そ、そうなのか…って、なんで録音してるんだ? 」 「ああ、よくある事なんで、断って逆上された時の為に録音してるんです。中には俺に弄ばれたって嘘を言う子もいるんで」 「そうなのか、イケメンも大変なんだな。今回は助教授だろ? 大学側に言えばセクハラで訴えられるんじゃないか? 」 「今後酷くなったら考えますが、これに懲りて静かにしてくれるなら騒ぎたくないです」 「平、優しいんだな」 「これで俺が遅れた理由分かってくれましたか? 先輩」 自分を見上げている蒼が可愛くて、力を少し強め抱き締める。 我に返った蒼は慌てて湊翔を突き飛ばし離れた。 「お、おい、離れろ! こ、これもセクハラだ! 」 「先輩が逃げるから捕まえただけです。それに、先輩が嫌がるなら俺はしませんよ。好きな人の嫌がる事なんてしたくないし。俺に抱き締められて嫌でしたか? 」 どストレートに聞いてきて蒼は困る。嫌かと言われたら、そんな事はない。気持ち悪くも無かった。というか抱き締められたというより、暴れるのを抑えられてただけとも言える。 「い、嫌ではないが困る…」 「嫌ではないならよかったです」 「もうこの話はいいよ。ほら、台本渡すから見てみてくれ」 湊翔用の台本を渡した。ペラペラめくって見る。全部英語で書いてある。 「へぇー全部英語なんですね? 」 「ああ、この大学は話せる奴も多いし、ディズニー系は英語の方がしっくりくるだろ? 普通に日本語の年もあるけどな。平、話せるか? 」 「I'm not good at it but for you (得意ではないですがあなたの為なら) 」 「グッ、話せるじゃないか…」 「senpai i like it please be my lover(先輩、好きです。恋人になって下さい) 」 「NO!!! 」 顔を真っ赤にして反論する蒼に笑ってしまう。 本当にこの人は可愛いなと改めて思う湊翔だった。

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