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第9話(陸と裕二)
演劇部の明かりが見える所に、裕二は立っていた。
(まだ、いるのか…)
これからバイトに行かなければ行けないが、なかなか足が進まない。
本当なら、自分の中に入って2人が何をしているか見たかった。
だが、そんな事をすると湊翔に怪しまれる。
今日のお昼の時の行動は咄嗟に出てしまった。
蒼や友樹は気にしてない様だが湊翔は違うだろ。
頭がいい湊翔なら自分の行動に友達以上のものを感じた筈だ。
(焦ったな…)
裕二は気をつけようと再度誓い、バイトに行こうとクルっと振り向いた。
「!? 」
裕二は驚いた。振り向いた所に陸が立っていたのだ。
(コイツ、いつから…? )
「こんばんは、種谷先輩」
「ああ…」
裕二は、挨拶だけして行こうと陸の横を通り過ぎようとした。
「待って下さい! 」
ガシッと腕を捕まれ驚く。
「なんか用か? 」
眉を寄せ陸を見る。陸は黙ったまま裕二を見ている。
178ある裕二より高い。180ちょいはあるだろうか。
見上げる事が少ない裕二は陸を見上げ腕を離すよう促す。
「用がないなら離せ。俺は用事がある」
腕を振り払って行こうとした。
「先輩は栗城先輩が好きなんですか? 」
陸の突然の質問に振り払おうとして止まる。
「なんだと? 」
「好きなんですか? 」
「蒼の事か? 好きだよ、大事な友達だ」
「友達としてじゃなくて、恋愛対象として好きですか? 」
(コイツ… )
裕二は眉をひそめた。心で少し動揺はしたが顔に出すほどバカではない。
「アイツは友達だよ。もういいか? バイトに遅れるから離せ! 」
少し強引に腕を払い裕二はその場を後にした。
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「もうこんな時間か? そろそろ帰るか。平、お前も寮なんだっけ? 」
「はい、先輩とは違うA棟ですけど」
「そうか、じゃあ気をつけて帰れよ! 」
「先輩、送りますよ」
「はっ? いいよ。すぐそこだし」
「でも遅いので、心配です」
「心配って、俺は男だぜ? なんの心配だよ」
「先輩は可愛いので、知らない人に声かけられるかもしれないでしょ? 」
蒼は湊翔の言葉に呆れた顔をする。コイツは自分をなんだと思ってるんだ? 可愛い女の子にでも見えるのだろうか?
「なわけないだろ? ほら早く出ろ、鍵閉めるから」
さっさと部室から追い出し、鍵をかける。
「じゃあ、台本ちゃんと読めよ! 来週、役柄の最終決定でみんな集まるからお前も来いよ。じゃあな」
挨拶をしてさっさと帰ろうとする蒼の腕を掴む。
「待って下さい。送るって言いましたよ? 」
「だからいいって! 」
「俺が嫌なんです! 送らせてくれないなら来週の顔合わせ、参加しませんよ? 」
「脅すきか? 」
「まさか! 先輩が大人しく送らせてくれたら、もう言いませんよ」
「それを脅すって言うんだろ? わかったわかった、勝手に送れ! 全く…」
文句を言いながらも、結局折れる蒼。
湊翔は嬉しそうに蒼の後をついて行く。
「俺の寮からお前の寮は少し遠いだろ? 益々帰り遅くなるぞ? 明日小テストとかないのか? 」
「大丈夫ですよ。最近運動不足なんでちょうどいいです! 風も涼しいので気持ちいいですね」
確かに夜になり少し涼しくなってきた。5月とはいえ昼間は暑い日が続く、蒼も湊翔の言葉には同感だった。
「確かに涼しくて気持ちいいな」
空を見上げスンスンと匂いを嗅いでる蒼の横顔を満足そうに見ている。
ジッと見ていると蒼が気づき睨んできた。
「おい、そんなに見るな! 」
「どうしてですか? 好きな人の顔はいつも見たいものですよ」
恥ずかしげもなく言う湊翔にこっちが赤くなる。
(どうして、こんなクサイ台詞を惜しげも無く言えるんだ、コイツは? こっちが恥ずいわ! )
夜でよかった。蒼は自分の顔が赤くなるのが分かった。
「なあ、平はいつもそうなのか? 」
「いつもそうとは? 」
「好きになった子には、毎回好き好き言うのか? 」
「さあ? 俺が好きになったのは先輩が初めてなので分かりません」
「えっ? 」
思わず湊翔の顔を見た。
「本当ですよ。付き合った事もないですし」
「はっ? お前が? 」
マジマジと湊翔の顔を見る。こんなイケメンが、彼女がいた事ないだと?
絶対嘘だろと言う顔をする。
「先輩、信じてないでしょ? 陸や佳奈に聞いてもいいですよ? 」
(そこまで言うなら本当かもしれない。でもなんでだ? )
「確かに小さい頃から告白とかは何回もされましたが、付き合いたいと思う子はいなかったです。俺、付き合うなら自分が好きになった人じゃないとダメですからね」
「そうか、好きな子とかいなかったのか? 」
「先輩って、結構バカですね? 」
「はっ? なんでそうなるんだよ! 」
急にバカと呼ばれカチンときた。
「さっきも言いましたが、自分から好きになったのは先輩が初めてなんです」
「あっ…そうだった…」
「先輩って…」
「いい! わかった、もう言うな! 」
フゥと息を吐く。湊翔と話してると調子が狂う。
いつの間にか湊翔のペースになってしまう。
「でも、なんで俺なんだよ? 他にも可愛い子や、カッコイイ奴とかいるだろ? 」
「俺は先輩がいいんです。他の人は他の人です。ほら、着きましたよ」
言い合っていたら、いつの間にか寮に着いた。
いつもより早く感じた蒼だった。
「ああ、送ってくれてありがとな。気をつけて帰れよ」
「はい、おやすみなさい」
湊翔は蒼に手を振り、元来た道を帰って行った。
「本当になんでだろう…」
蒼はまだ湊翔と高校の時話をした事を思い出せず、モヤモヤしたまま寮に入って行った。
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