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第10話(蒼と裕二)
顔合わせ当日、蒼は少し早めに部室に来ていた。
配役を書いた紙を見ながら、劇のシュミレーションをする。
湊翔はあれなら2日に1回は蒼の前に顔を出し、あれこれと世話をする。
今まで自分がやる事があっても、される側になる事はない蒼はくすぐったくて全然慣れない。
「毎回毎回、クサイ台詞吐きやがって…」
会う度に好き、可愛いと言われいたたまれなくなる。
でも強引に何かしてくる気配はない。
蒼が嫌がる事はしない湊翔に感心しつつもふと疑問が頭をよぎる。
「アイツの好きって、動物を好きとかと同じなのかな? それなら害はないから助かるが…」
蒼がブツブツ独り言を言っていると、ドアが開き裕二が入ってきた。
「あれ、裕二早いな? 」
「ああ、早く講義が終わってな」
裕二はそう言うと蒼の横に座り息を吐く。
少し眠そうに欠伸をする。
「大丈夫か? バイト遅かったのか? 」
「ああ。昨日は結構客がいて、中々帰れなかった」
裕二がこう言う時は裕二目当ての客がいた時だ。
裕二目当てにくる女の子が多い。裕二が帰ると皆帰るので、オーナーとしては長く裕二に居てもらいたいのだ。
「モテるのも大変だな。まだ30分位あるから寝てろよ」
蒼は自分の肩をポンポンしながらもたれるよう裕二を見る。
この仕草になんの意味もないのは分かっているが一瞬ドキッとする。
「ああ、悪いな」
蒼の言葉に甘え、裕二はに肩にもたれ仮眠をとった。
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30分位すると、部員達がゾロゾロと入ってきた。
裕二も、もう起きてテーブルの方の椅子に座っている。
ほとんどの部員が来た最後に友樹が入ってきた。
「友樹、遅いぞ! 」
「悪い悪い、ちょっと用事があってな。でもほら、途中で会ったから連れて来たぞ」
友樹の後ろから湊翔が入って来た。
『キャーーー!! 』
湊翔を見た瞬間、女子部員達が悲鳴をあげる。
間近で見る湊翔の破壊力にメロメロになっている。
「みんな落ち着け、今回特別に参加してもらう1年の平だ」
「知ってますよ! 」
「はぁー本当にイケメン! 」
「こんな人と一緒に劇出来るなんて生きててよかった! 」
女子部員の賑やかさは中々落ち着かない。
蒼はため息をつき、収まるのを待つことにした。
(全く、女の子ってイケメン好きだよな? 先が思いやられる…早く平に慣れて貰わないと)
「ほら、もういいだろ。これからしょっちゅう来るんだ。嫌でも顔が見える。とりあえず、配役を発表していくから静かにしてくれ」
ようやく静かになった部員達を眺め、1人1人役名と名前を呼び出した。
「アラジン役は知っての通り平、ジャスミンは松前さん、ジーニーは友樹、ダリアは…」
全員の役はを呼び終え顔を上げると、女子達は湊翔の顔しか見ていなかった。
男子さえ羨ましそうに眺めている。
「全く…いいか、わかったか? 」
『は、はい! 』
全員が慌てて返事をする。
「じゃあ今日はメインだけ少し声合わせするから、他の皆は台本読んで自分達の台詞を覚えてくれ。衣装係はみんなのサイズを測ってくれ」
「分かりました」
ようやく各々動き、普段の様子に戻ってきた。
「蒼、お疲れ」
「ホント、平は凄いな」
裕二と友樹が声をかけた。
「ああ、これから先が思いやられるが何とかスタートしたな」
裕二と友樹が分かった顔で肩をポンポンした。
裕二は蒼に台本を見せる。
「蒼、ここの照明なんだけど…」
「ああ、ここな。実際に体育館に行かないと分からないよな? 友樹、ちょっと行って来るわ」
「ああ、こっちは任せとけ! 」
一応副部長の友樹が2人を送り出す。その様子を見ていた湊翔が友樹の所へやってきた。
「先輩、2人はどこ行ったんですか? 」
「ああ、体育館に照明を見に行ったぜ? 」
「そうですか…」
出て行ったドアを眺めていると友樹が呆れた声を出した。
「そんな四六時中、蒼の傍にいなくていいだろ? 大丈夫だって、アイツはモテないから」
親友なのに酷いいいようだ。湊翔は友樹の言葉に苦笑いをする。
「好きな人なら四六時中一緒に居たいんですよ。俺少し見てきますね」
慌てて友樹が止める。
今行かれたら女子部員達から攻められてしまう。
「待て待て待て! 何か用事なのか? なら俺が行く! 」
「いえ、自分が劇をする場所に立ってみたくて」
「なら俺も一緒に行く! 体育館遠いだろ? 案内してやるぞ! 」
1人で残されたくない友樹は、湊翔を促しそっと部室を出ていく。
「先輩、そんな女子部員の人達が怖いんですか? 優しいですよ? 」
湊翔の言葉に友樹はジロっと睨みため息をつく。
「それは平だからだろ? 俺には冷たいぜ。裕二にも優しいな。アイツも相当カッコイイからな」
「先輩は面白いですよ」
「そんな慰め嬉しくないわ! 」
「でも、佳奈も言ってましたよ。面白い先輩って…」
「佳奈ちゃんが? ならそろそろ名前で呼んでもいいかな? 」
友樹が食い気味に聞いてきた。
少し励まそうと話を盛っただけなのにと、少し申し訳なくなる。
「それは多分まだ…」
「そっか…」
あからさまに落ち込む姿を見て、湊翔は笑いを堪える。素直に喜怒哀楽を出す友樹は面白い。
「先輩、落ち込まないで下さい。今度みんなでご飯行きましょう。陸や佳奈にも言っとくんで」
一瞬で友樹の顔が笑顔になった。湊翔の手を握りブンブンと振る。
「平、本当か? 学食じゃなくて、外でな! 約束だぞ! 」
「わ、わかりました…」
友樹の気迫に押される湊翔だった。
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