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第13話(裕二の思い…)
「…はっ? 何言ってるんだ? 」
裕二の顔が歪む。
(そうだよな、こんな頼み気持ち悪いよな)
「わ、わりーわりー! 変な事言ったな、忘れてくれ。ちょっと平と比べたくて、悪い」
慌てて言い訳した蒼の言葉に、裕二の顔が益々険しくなった。
「蒼、お前平に抱き締められたのか? 」
「ああ、突然な。全くアイツは許可なく勝手に…痛、どうした? 」
急に腕を捕まれ、驚いて裕二の顔をみた。裕二は険しい顔をしたまま、無言で蒼を引き寄せ抱き締める。
裕二も背が高い。蒼は裕二の腕の中に収まる形になった。
裕二は一瞬強く抱き締めすぐ離した。
「ほら、どうだ? 」
「あ、ああ。悪いな、ありがとう」
「嫌な事されたなら、ちゃんと言えよ? 」
頭をポンポンと叩かれ、笑顔で言う裕二はいつもの裕二だった。
(良かった、怒ってない)
アホみたいな事を言ってしまって少し反省した。
「じゃあ、俺は帰るぞ」
「ああ、明日な」
裕二は手を上げ部室を出ていく。
蒼はソファに1人で寝そべり、さっきの事を思い出した。
裕二に抱き締められ、気持ち悪くは無かったがドキドキもしなかった。
だけど、湊翔に抱き締められた時はドキドキした。
この違いはなんなのか…
「裕二は友達だから、安心してるとかなのかな? でもキスされそうになったとは言えないよな…いくら友達でも…はぁ…」
蒼はもう一度大きなため息をついて、起き上がり帰る事にした。
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「…二、裕二! 」
「えっ? あ、はい。なんですか? 」
バーの店長に話しかけられ、慌てて返事する。
「今日はどうした? えらい上の空じゃないか? 何かあったのか? 」
「いえ、大丈夫です。すいません」
「疲れてるなら言えよ? 結構無理言って入ってもらってるからな」
裕二がいると女子率が高い。そうするとその女の子を狙い男達も集まる。
店長としては、裕二にいてくれるのは助かっていた。
「大丈夫ですよ、少し疲れてるだけで」
「今日は早めに上がっていいぞ。ほら、友達だ」
カランカランとドアが開き、友樹が顔を覗かせた。
「友樹か」
「友樹とはなんだ? 誰ならいんよ? 」
「別に、ハイボールでいいか? 」
「サンキュー。お前、あの後蒼にあったか? 」
「ああ、部室に戻って来たぞ」
「平は大丈夫だったか? 」
「大した事ないってよ」
「そうか、良かったな。主役が腕も上がらないんじゃ困るしな」
「蒼を抱き締める力があるくらいだから、大丈夫だろ」
投げやりな口調で裕二が言った。
「えっ? アイツ、抱き締めらたの? ちょ、詳しく…」
友樹が食い気味に聞こうとした時、入口のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
店長の言葉と共に入って来たのは、陸と佳奈だった。
「えっ? 佳奈ちゃ…山下さん、どうしたの? 」
友樹が嬉しそうに話しかける。
佳奈はコイツもいるのかと思ったが顔には出さず、返事をする。
「どうも、陸が来たいって言ったので一緒に来ました」
「そうなんだ! 会えて嬉しいな。平は大丈夫そう? 」
「はい。ここに来る前、陸に薬を塗ってもらってましたよ。痛みはあるけど、腕が上がらない程ではないみたいです」
「そうか、良かったな。せっかく来たんなら、一緒に飲もうよ! 」
友樹は自分の隣の席をポンポン叩く。
佳奈は仕方なく友樹の隣に座った。目で陸を睨む。
陸に頼まれて一緒に来たのに、友樹に捕まってしまったアピールだ。
陸は佳奈に目で謝り、裕二の前に座った。
「先輩、こんばんは」
「お前、未成年だろ? こんな所に来るなよ」
陸を見て露骨に顔を顰める。
「だって先輩が働いてる所、見たかったんですよ」
店長は裕二と陸の顔を交互に見ながら、
「裕二、お前の後輩か? 凄いイケメンだな? 君、名前は? 」
陸に興味を示す。
「秋山陸です。種谷先輩の後輩で、今大学1年です」
「へー、裕二の大学はかっこいい子が多いんだな。秋山君、今バイトとかしてるの? 」
「店長! コイツ、まだ未成年ですよ? 雇う気ですか? 」
「いいだろ? そうしたら、裕二の負担も減るし。お前だって1年の時から働いてたろ? 」
店長に言われ、裕二は黙ってしまう。
陸がいると調子が狂う。ジッと見つめてきて、心の奥まで見透かされる気がする。
裕二は居心地が悪かった。友樹をチラッと見るが、友樹はそんなのは知らないと、佳奈に積極的に話しかけ、軽くあしらわれている。
「今1つしてますが、週に数回とかでもいいなら大丈夫ですよ。種谷先輩と働けるなら、俺やりますよ」
「何、君は裕二が気にいってるのか? 裕二、こんなイケメンに慕われていいな、お前」
コノコノの肘で裕二をつつく。なんにも分かってない店長にため息しか出ない。
「お前、医学部だろ? 勉強しなくていいのか? 」
「今の所、講義だけで分かってるので大丈夫ですよ。2年3年になるとさすがに厳しいので1年の今、色々しようと思ってます」
それなりに考えている陸に裕二はフンと鼻を鳴らす。
「ふーん。とりあえず、来たなら何か頼め」
「あ、はい。ジンジャエール下さい。佳奈は? 」
「私はグレープジュースお願いします」
「分かった」
裕二は、帰りそうにない陸に諦めて飲み物を出す。
その間も陸は裕二を見ている。
「先輩はなんでここで働いてるんですか? 」
「別に。勧誘されて…」
「そうなんだよ。先輩達と飲みに来てた所を俺が見つけて声かけたんだ。お金にも困ってたし…」
「店長! 」
裕二の鋭い言葉に店長も悪いと黙る。陸はその事には触れず、ジンジャエールを飲みながら大学の話を裕二にふった。
「先輩。今度教育学部にある図書室に連れて行って下さい。医学部のと違いが見たいんです」
「なんで、俺が? 」
「いいじゃないですか。俺、教育学部に知り合い先輩しか居ないし」
「友樹がいるじゃないか」
「ダメダメ、俺図書室とか興味ねーもん」
話に入ってきてないのに、都合の悪い事だけはすぐ耳に入る。
「先輩…」
「分かった分かった、そのうちな」
「ありがとうございます! 」
陸は嬉しそうにニコニコとしている。
その時、佳奈の携帯が鳴った。
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