14 / 27
第14話(陸の鋭い指摘)
「佳奈、出なくていいのか? 」
陸に言われるまで無視をしていた佳奈だが、仕方なく出る。
「もしもし? うん、今陸と一緒…」
少し店の奥の方に行き、電話をしだした。その様子を見ていた友樹は、陸に質問する。
「なあ、秋山。佳奈ちゃんの相手って彼氏なんだよな? 」
「多分、そうだと思いますよ」
「なんで、あんな嫌そうなの? ケンカでもしてるのか? 」
「さあ、佳奈はあまり自分の事話さないんで…。でも、最近は上手くいってなさそうですね」
「ふ~ん、あんな可愛い子でも上手くいかないとかあるんだ。俺なら絶対悲しませないけどな」
「お前は無駄にポジティブなだけだ」
裕二に突っ込まれ、確かにと笑った。それでも、少し心配そうに佳奈の方を見ている。
佳奈が電話を切って戻ってきた。
「大丈夫か? 」
「うん、近くに来てるからちょっと会って来るね」
「そうか、暗いから送るよ」
陸が席を立とうとした所を、友樹が制する。
「お前はここにいろ。俺が送って来るよ。どうせ、明日の朝早いから長居しない予定だったし。山下さん、行こ」
友樹に言われ一瞬悩んだが、陸の恋路を邪魔するのも悪いし、帰り道が暗いのも事実、少しでも役に立つならこの人でもいいかと妥協する事にした。
「じゃあすいませんが、近くまでお願いします」
「任せてよ! 変な男に声をかけられたら退治してあげるから」
友樹が胸をドンッと叩き請け負う。佳奈から見たら友樹も十分変な男だが、そこは黙ってスルーした。
「じゃあ陸、明日ね」
「ああ、またな」
2人が店を後にすると、裕二が2人ののグラスを下げる。
陸のグラスにはまだジンジャエールが残ってる。
「お前も、それ飲んだら帰れよ。まだ1年だろ? 明日の講義早いだろ? 」
「そうですね、先輩はまだ帰らないんですか? 」
「俺は…」
裕二が話す前に店長が遮る。
「裕二も、もう上がっていいぞ。ついでに彼を送ってあげなよ」
「店長、なんで俺が? 」
「だってこの子、君に懐いてるみたいだし。ここで働くなら仲良くなって貰わないと」
店長の言葉に裕二は黙ってしまう。ここで反論をしても無駄だと思い、エプロンを外す。
「着替えてくるから待ってろ」
「じゃあ、俺も行っていいですか? 」
「ああ、ちょうどいい。ロッカーの場所教えてやれ」
裕二は反論する気も怒らず、無言で裏に入って行った。
「陸君も行っておいでよ」
「はい。じゃあ会計を…」
「いいよ、今日は。俺の奢りだ」
「すいません、ありがとうございます」
お礼を行って、裕二の後を追う。
カウンターの裏に休憩室と書いたドアがあり、そこを開けると裕二が着替えをしていた。
入ってきた陸を見て、自分の隣のロッカーを開ける。
「ほら、ここを使え。鍵はちゃんとかけとけよ。盗まれても自己責任だ」
それだけ言うと、また着替えに戻る。
「ありがとうございます。先輩、お金に困ってるんですか? 」
陸のストレートな質問に素っ気なく答える。
「お前には関係ないだろ? 」
「関係ありますよ。先輩の事はなんでも知りたいので」
「はぁ? なんでそんな知りたいんだよ」
「なんでですかね。俺、先輩に興味があるんですよね」
そう言いながら、陸は裕二に近づいていく。 裕二が振り向くとすぐ近くに陸の顔があった。
「興味ってなんだよ? どけ」
裕二の言葉に、陸は片手を裕二のロッカーに当て、裕二を見下ろす。
「教えてくれるまで、どきません」
もう片方も反対側に置き、裕二を見る。
「先輩、綺麗な顔してますね」
「なんなんだよ、お前は…」
何を言っても響かない陸に呆れてきた。
なんでコイツはこうも強引なんだろうか?
裕二は考えながらも、陸の腕をどかそうとしたがビクともしない。
細く見えるがしっかりとした筋肉がついている。
そこにも苛立ちを覚え陸を睨み上げる。
「何が聞きたいんだ? 金がないかって? ないよ。うちは母親しか居ないからな」
「離婚したんですか? 」
「5年前、病気で死んだんだよ」
「それで、大学行きながら働いてるんですか? 兄弟はいないんですか? 」
「妹がいるよ。まだ高校生だが。もう、いいだろ? どいてくれ」
裕二が陸の腕に手をかける。
「もう1つ。前に聞いた質問の答えがまだです。平先輩の事が好きなんですか? 」
「またそれか? 前も言ったろ、友達だから好きに決まってるだろ? 」
「先輩を見てると、友達としての好きには見えません。恋愛としての好きに見えますよ」
「そんなのはねーよ」
「先輩、自分で気づいてないかもしれませんが、栗城先輩を見る目は恋してる目ですよ。そして、湊翔を見る目は嫉妬の目です」
「違う、お前の勘違いだ! いい加減にしないと本気で怒るぞ」
裕二の冷静な言葉に、陸もようやく腕をどかす。
裕二は無言で着替えて、部屋を出て行こうとした。
「先輩、なんで俺が分かるか教えてあげますよ」
ドアノブに手をかけた裕二の動きが止まった。
「俺が先輩をずっと見てるからです。遠くからでも。だから、先輩が常に誰を見ているか知ってます」
陸の言葉に裕二は少し止まっていたが、振り返る事もせず、黙って部屋を出て行った。
それを見て陸はハァーと息を吐き、しゃがみこむ。
「あーあ、怒っちゃったかな? 俺も余裕ないな…」
頭を抱えて反省していると、またドアが開いた。店長かと思って顔をあげたら、裕二がいた。
「先輩…」
「お前を送るって店長に言われたからな。早くしろ」
ぶっきらぼうに言ってまた出て行った。
「先輩、待って下さい! 」
陸は嬉しそうに裕二の後を追いかけた。
ともだちにシェアしよう!