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第16話(助け船)
「なんで俺が行かなきゃいけないんだよ…」
友樹に追い出され、ブツブツ文句を言いながら仕方なく体育館に向かう。
体育館の近くになると遠くから湊翔と松前の姿が見えた。
蒼は足を止める。遠くから見た2人はとてもお似合いに見えた。
松前が台本を見ながら湊翔を見上げて何か言っている。湊翔も松前の台本を覗き込みながら、笑顔で会話していた。
「なんだよ、やけに近いじゃないか…」
また心がモヤモヤする。2人に近づこうとしたが中々足が進まない。
その時、陸と佳奈が蒼に声をかけてきた。
「あれ? 先輩も湊翔に呼ばれたんですか? 」
「いや、ち、違うよ。友樹に言われて…。君たちは平に呼ばれたのかい? 」
蒼の言葉に佳奈が携帯を取り出し、さっきの画像を見せてきた。
「これですよ、これ! 松前先輩のアピールに湊翔も困ってて、自分達に迎えにこさせたんです。同じ劇に出るから無下に出来ないらしくって」
「平、嫌なんだ…」
佳奈の言葉にホッとする。
(あれ? なんで、今ホッとした? )
蒼は自分の心が少しスッキリした理由が分からず、またモヤモヤした。
「でも、栗城先輩が迎えに来たんなら、俺ら来なくても良かったな? 」
「そうね、帰りましょうか? 」
「ま、待て! 別に俺は平を迎えに来たんじゃなくて、友樹に言われただけだ! 」
慌てて否定する。
「またまた~」
佳奈にからかわれ、思わず友樹の話を出してしまう。
「ホントだって! 友樹が松前さんにちょっかいかけないように、見張れって! 」
「へー。柴田先輩、松前先輩を狙ってるんですね。気が多いんだ、あの人」
佳奈がトゲがある言い方をした。
(しまった! 友樹は山下さんが好きだったんだ! マズイ! )
「ち、違うよ。狙ってるとかじゃなくて…」
「先輩、大丈夫ですよ。私、全然気にしてないですから。益々印象が悪くなっただけなんで」
慌てて言い訳したが、佳奈は興味が無さそうだった。
「違う、違うよ! 友樹はそんなチャラチャラしてないって! 」
自分の為に言い訳を考えてくれた友樹の印象が、悪くなるのは申し訳なさすぎると、蒼は一生懸命友樹のいい所を佳奈に説明した。
一生懸命説明する蒼に佳奈は笑ってしまう。
(この様子からすると、あの先輩が栗城先輩に迎えに行かせる為に言ったのね。案外いい所もあるのね)
湊翔から保健室のやり取りを聞いていた佳奈は、友樹が気をきかせた事に気づいた。
「ふふ、先輩は優しんですね。分かりましたよ。とりあえず今は、湊翔を救出しましょ」
「そうだな。おーい、湊翔! 」
陸が大きい声で湊翔を呼んだ。陸の声に2人が顔を上げた。
「ああ、来たのか? 先輩も? 」
湊翔は蒼が居る事に驚いた顔を見せたか、直ぐに嬉しそうな笑顔を見せる。
その笑顔が松前に見せてたのと違うのが分かり、蒼は嬉しくなった。
「友樹が松前さんに用事があってな…」
蒼は素っ気なく話す。数日ぶりの湊翔の笑顔は蒼には眩しすぎて直視できない。
「ほら、この後出かける約束したろ? だから佳奈と迎えに来たんだ」
陸の助け舟に湊翔は助かったと目で感謝した。
松前は不服そうに、湊翔を見上げる。
「湊翔君、まだ今日の全部終わってないわよ? 」
「先輩、すいません。また別の日にお願いします」
「でも…」
まだ食い下がる松前に蒼が声をかけた。
「松前さん。平、用事があるみたいだから稽古の相手は俺か友樹が付き合うよ」
「部長、でも湊翔君じゃないと雰囲気が…」
「近いうちに全体稽古があるから、今日は帰ろう。とりあえず、友樹が呼んでたから部室に戻ろ」
「副部長が? あの人、話長いんですよね」
ハァーと息を吐きながら、松前は諦めて蒼と一緒に部室に戻って行った。
湊翔が蒼に話しかけようとしたが陸に止められる。
2人が居なくなると、陸が話し出した。
「松前先輩の前で、露骨に栗城先輩にちょっかいかけるなよ。あの人、結構本気でお前狙ってるだろ? 栗城先輩も部員と揉めたくないだろうし? 」
「分かってるよ。女の子の方がいいとか散々話されたから。先輩口説いてるのも冗談だと思ってる。本気だって言ったのに伝わってない」
「仕方ないわよ。自分に自信がある子なんて、都合のいい方にしか解釈しないんだから。あんたもそうでしょ? 先輩が来て嬉しそうな顔しちゃって」
佳奈におでこをつつかれ、からかわれる。
「仕方ないだろ。数日ぶりに見たんだから」
「我慢出来るのが、数日なんて短すぎだろ? 」
呆れた感じで言われてしまう。
「うるさいな、3年我慢したんだ。もう数日も待てないよ」
「あのね、恋愛は相手あってなのよ? 1人で暴走すると嫌われるわよ。でも、先輩少しは湊翔の事気にしてたわね」
「そうだな。わざわざ見に来る位だから。少しは気になってるんじゃないか? 」
陸はさっきのやり取りを湊翔に話してやった。
陸の話に顔のニヤつきが止まらない。
「あーキモイ。この男のどこがいいんだか」
「うるさい! 先輩は最高なんだ」
「ハイハイ、分かってるって。ほら、せっかく解放されたんだから、何か食べて帰りましょ」
「そうだな。頑張った俺達に何かご馳走しろよ」
「調子がいいな、何がいんだよ? 」
「ラーメンでも行こうぜ」
陸が湊翔の肩に手を回し、3人はご飯を食べに行く事にした。
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