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第3話 壁の向こうに②

(おっ……おっ……おとっ――こっ……!?)  目の前にいる美少女が男であるという事実に、あぜんとする三井田。   「そ――そんな、だってどう見ても――」 「……きもちわるい?」 「いや、そんなことは――――ただすごくびっくりして……あ、で、でも――ミキちゃんが仮に男のコでも、そんなことは言っちゃいけないよ」 「なんで?」 「なんでって――そういうことは、初対面の相手に話すべきではないだろ。なんていうかその――きみという人間が、軽く見られてしまうというか」 「……軽く?」 「うん。こいつならすぐヤれるとか思われたらもったいないだろ。もっと自分を大切にしないと」 「…………」  ……びっくりした。  そんなこと、いままで、一度もいわれたことはなかった。  ――ミキの母親は、15歳でレイプされ、ミキを産んだ。  ミキ自身も、13歳のとき、母親の交際相手に自宅でレイプされた。  母親の交際相手は、たびたびミキを犯すようになった。  ある日、その現場を母親に目撃され、「泥棒猫!」とののしられた。  ミキは、母親の交際相手に連れ出され、男のアパートで暮らすようになった。  ギャンブル依存症だった男は、ミキにアパートで客をとらせ、その売上を競馬とパチンコにつぎこんだ。  ミキは、中学にほとんど通わなかった。  楽しみは、TikTokやYouTubeで見たメイク動画をマネてお化粧したり、リサイクルショップで1枚100円の服を買ってコーディネートするだけ。  15歳になって、地元のカラオケボックスでアルバイトをはじめた。  そこで同じアルバイトだったフリーターの男と知り合い、恋に落ちた。  男の部屋に転がりこみ、同棲。  朝から晩までセックスをした。  そうこうしているうちに男の借金がどんどんふくらみ、ミキは紳士クラブに売り飛ばされた。  そのとき、ミキはまだ16歳だった。    ……薄い壁の向こうから、ゴゴゴッ、と物を動かす音がする。  部屋に戻ってきたミキは、畳に寝っ転がり、ぼんやりとしていた。  心配そうに自分を見つめる三井田のまっすぐな瞳が、瞼の裏側に焼きついて離れない。 (この壁の向こうに、みいたんがいる……)  ぜったいノンケだろうな、たぶんチェリーではないだろうな、そんなことをつらつらと考える。  いままではノンケ相手でも、その気になればおとすこともできた。  だけど三井田は、これまで知り合った男たちとは全然ちがう気がした。  ミキが経験したことのない、まっさらで清い世界の住人。  マッチングアプリで出会った相手と一晩過ごしたり、立ちんぼのウリ専を買ったりはしないだろう。  もし、ミキがウリをしていると知ったら――三井田はどんな顔をするだろうか……?  ブブブッ……と卓袱台の上のスマホが震える。  桐ケ谷が連絡用にミキに持たせたものだ。 「……はい」 「――寝てたんか?」  と桐ケ谷。 「いえ――」 「いますぐ出てこい。客が待ってる。今日の客はスカトロなしだからな、てめぇでケツ穴洗ってこいよ」 「……わかりました」  通話が切れ、LINEのトーク画面に、ホテルの所在地が記される。  ラブホテルとその部屋番号。  服を脱ぎ、裸でトイレに入る。  トイレの隅に置いていたイチジク浣腸をアナルにねじ込み、便座に座る。  差し込むような腹の痛み。   ブッ! ブブブッ! という屁とともに出てくるゆるい便。  便が透明になるまで繰り返してから、バスルームに行く。  シャワーのノズルを肛門に当て、ジャーッ、とお湯を注ぎ、シャワー浣腸する。  白いフリルブラウスと、青いキュロットパンツに着替え、ローズマリーの匂いの香水をふりかけ、GUCCIの偽ブランドのショルダーバッグを手に、アパートを出る。    

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