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第4話 友達契約

 それからと言うもの、僕の学校での扱われ方を知った両親は転校手続きをし、自分達の職場に近いアパートへと引っ越した。  さすがに仕事は変えられないらしいが、家との距離が近くなった事で、家族みんなで晩ご飯を囲めるようになった。 「ほんと人間って不思議だねえ、キミもご両親も無駄に行動力はあるくせに、もっと早くやれば良かっただろうに」 「……仕方ないですよ、両親は僕が生まれた頃からいるあの町にいた方が幸せだと思ってたみたいですし」 「相手の幸せなんか、自分が見ただけじゃ分からないでしょ」  辛辣な言葉をずけずけと言う死神は、この数ヶ月間でかなり人間界に慣れたようだ。ベッドにあぐらをかき、ファーストフード店のシェイクを啜ってる。 「またそれですか……よく同じ味で飽きないですね、というかお金どうやって払ってるんです? まさか僕の……」 「死神が泥棒に転職する訳ないでしょ。ボクの力さえあれば、この世のシェイクなどボク一人で支配できるねえ」 「それより死神のボクとのお喋り……って言うか? 1人喋り? も、うまく出来るようになった事だし」  「明日の転入初日は付き合わなくて良いよね?」と、勉強机に向かっている僕に、胡散臭い笑顔を見せた。 「……学校なんて……今のご時世行かなくたって、勉強なんて家で出来ますし……」  彼からも、あの日からずっと引きこもり続けてる僕自身にも目を背けて、テキストのページをめくった。 「今の時代なんかボクにとってはどうでも良いね。だけどもずーっと家で1人きりなんて、これから先また同じ事が起こるかもねえ」 「不安を煽るぐらいなら、楽しい話でもしてくれませんか。友達契約結びましたよね?」  初めていつもより強めの口調で言い返すと、彼はハアとため息を吐き「キミ自身が変わらなきゃ、未来は変わらないよ」とだけ残して、部屋を去った。  僕だって分かっている、死神の彼が帰るためには自立しなきゃいけない事も。家族のためにも、これ以上心配をかける訳にはいかない事も。  だけど勇気が持てない名前負けしてる僕は勉強にのめり込んだ。 「さっきはごめんなさい……晩ご飯残り物だけど、ハンバーグだったから持ってき……た……」  家族団らんの時間、彼がいつも興味津々に見ていたハンバーグの皿を持って僕は硬直した。  ──死神が部屋に居ない。  ショックのあまり手から滑り落ちた食器を無視して、部屋中探し回る。ベッドの下、クローゼットの中。窓の外のベランダ。  これ以上先は……もう、外しか探す場所がない。  友達契約なんか言ったって、いつもそばで僕を見下ろして偏屈な事や適当な事ばっか言ってるくせに、友達らしく遊んだりなんか、何一つ、まだ何も出来てないのに……!!  この1ヶ月ぐらいの間、当たり前になっていた存在を失い、錯乱した僕は親の制止も聞かずに家を飛び出した。  引っ越して初めて見る近所、どこがどの道に繋がっているかも分からないまま、ひたすら走った。  「おーい! ……」名前を呼んで探そうにも、彼の名前すら知らなかった。  彼は……ただの死神だ。  走り疲れて辿り着いた真夜中の公園のベンチで、僕は一息吐いた。呼吸を整え、頭を冷静な状態にしてみれば、僕はずっと幻を見ていたのではないかと思えてきた。 「死神が助けてくれるなんて……死神が友達になってくれるなんて……死神が黒じゃなくて黄色いローブを着てるなんて……」  全部、孤独から発生した僕の空想だったんだと、頭を抱えていたら「黄色くても別に良いでしょ?」と懐かしい声がした。 「あ、ああああ……! 良かった、見つかって良かった……」 「良かった? 良かったのはキミのほうだよ、外出れたじゃん」 「え? あ……で、でも僕は慌てて、探しててそれで……」  「どんな理由にせよ、キミはあんなに怯えてた外に出た。キミが外に出れたのは、事実でしょ?」そう言って黄金の瞳を細めて笑った、彼の策にハマってしまったようだ。

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