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第5話 魔法のような
昨晩は一睡も出来なかった。久しぶりに外に出れた事による高揚感からなのか、転入初日の緊張からなのか。多分きっと後者だろう。
また同じようにいじめられないか不安でたまらない僕は、ブルブル体を震わせながら布団にこもっていた。
「ちょっとちょっと、昨日は外に出れたのにまたひきこもりになるつもり?」
「一回できたらもう一回できるでしょ」と布団から出るよう促されても、僕は枕で耳を塞いだ。
「も、もういじめられるのは嫌なんです……! せっかく親が手続きしてくれたのに、せっかくあなたが僕を見捨てないでくれたのに……また孤独を感じて同じ過ちを犯したら……」
「あなたも……もう居なくなってしまうんですか……?」
──「ボクはあなたじゃない、アヌスだ。友樹、いい加減にしないと……この契約書破っちゃうよ?」
「アヌス……アヌス……アヌス」
今までずっと名前を教えてくれなかった、僕の名を呼んでもくれなかったアヌスと一歩距離が近づけた気がして嬉しくなり、何度も名前を呼んだ。
アヌスが隣にいてくれれば学校も怖くないかも、そう思えた僕は飛び起きて、アヌスの手を握った。
「うわ、なに急に……」
「アヌス、僕はアヌスがいたら学校に行ける気がするんだ……! だから、一緒に来て欲しい!」
初めて敬語を外してみたのに、アヌスはいつも通り、黄金の瞳を細めて僕を睨んだ。
「忘れてるのかも知れないけど、ボクは友樹以外には見えないんだよ? その調子じゃあボクを連れて学校になんか行ったら、またボクに話しかけるだろ」
「また1人になって良いの? もう一人ぼっちは嫌なんでしょ、なら自分1人の力で行きなよ」
「一人ぼっちになりたくないなら、一人にならなきゃ出来ないことはあるんだよ」そう優しく諭されても、僕の恐怖心はひしひしと登り詰めていく。
体も心も冷たいアヌスはアヌスなりに気にかけているらしく、僕の顔を覗き込む。黄金の瞳にまた目を奪われ、思考力が落ちていく……。
「一人で行くんだ、孤独の恐怖に負けてはダメだ。昨日外に出れたんだ、友樹には勇気がちゃんとある。それを忘れるな」
「……分かり……ました……」
心と頭が空っぽになり、通学の準備をスムーズに済ませて、見送る両親に笑顔で手を振った。
綺麗な校舎を目前にした途端、心と頭が、感情、現状の情報でさくそうする。
押し寄せる恐怖に負けそうになって、帰り道に向かうと“何か“に弾かれた。
もしかして、そこにいるのはアヌス!? 良かった来てくれたんだ、お願い! 一緒に行こう。
僕は確かにそう言ったはずなのに、口が全く動かなかった。そして体は勝手に動きだし、校舎の中へ、教室の中へと場面が切り替わっていく。
心はついていけてないのに、もう生徒達が目の前にいる。みんなが僕を見る。挨拶をしなきゃいけないのに、僕は……僕は。
──「友樹には勇気がちゃんとある」──
「お、おはようございます……! 転校してきた、高城友樹(たかぎゆうき)……です……! よ、よろしくお願いします」
「ははは、ちょっと緊張してるみたいだね。みんな、高城友樹くんだ! 仲良くしてあげるようになー」
「「「はーい」」」
何事もなく自分の席へ案内され、隣の席の生徒に挨拶もしあい、教科書を見せて貰った。
僕は自分が今置かれている状況に頭が疑問符でいっぱいだった、これはアヌスの魔法だろうか?
それともアヌスの言葉のおかげなのか、どちらにせよ、アヌスにまた僕は救われたようだった。
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