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第7話 友情契約進行中

 それから1ヶ月の間──。 「お、今日も勉強? ずいぶん続いてるねえ、そんなに忍耐力あるなら今度は体でも鍛える?」 「何度も言うけどさ、友樹……赤切れ酷いよ。家事頑張りすぎじゃないの? そんなに無理しなくても、ご両親はキミを愛してるよ」 「あれあれ? 見間違いかなぁ、あんなに痩せっぽちだった友樹が筋トレ……になってんのそれ。はあ、ほんと体力ないね。もう明日から一緒にジョギングだからねえ、覚悟しろよー」  最初は冷たかったアヌスは僕の事をしっかり見て、いや昔も見ててはいたが……よく褒めてくれるようになった。  そして役目を果たしてないと思っていた友情契約も、徐々に進行中。 「はぁはぁ……待ってよ、アヌス!」  早起きが得意な僕らの日課になったのは、近所の河川敷を走ること。本当は勉強しなきゃいけないのになと愚痴をこぼすと毎回「キミは充分賢いよ」と軽く頭を撫でてくれた。  時には「そんな貧相な体じゃあ友達と遊べないねえ」と喝を入れてもくる。  そんなアヌスを信頼しきっていた。 「待ってって、別に1mも離れてないでしょー。友樹はボクに近づき過ぎだよ」 「だ、だって、アヌス……飛ぶなんてずるいよ。追いつくの大変なんだよ」 「でも初めたてよりはずいぶん追いつけるようになったじゃん? 成長したねえ」  低空飛行しながらローブをなびかせ、ほんの少しだけ小首を傾げて微笑む。  最初は褒める時も無表情だったが、夜な夜なネットを使っては『人を成長させる方法』を調べてる、アヌスは試行錯誤してくれる。  僕は……だんだんと彼が可愛く見えてきた。  彼の笑顔がもっと見たくて、勉強だけじゃなく運動も、もっと頑張り、褒めて貰いたくて──。いや、笑っていて欲しかった。 「何ぼんやりしてんの。もうすぐ家だよ、分かってるよね? 有酸素運動のあとは無酸素運動! つまり、きつーい筋トレだ」 「……ふふっ、分かってるよアヌス。今日も始業時間ギリギリまで、付き合ってくれる?」 「別に、良いけど……?」  彼に影響されて僕も笑顔が増えてきた、僕がにっこりと笑えるようにしてくれたんだろう。  だけどアヌスは僕の笑顔を見るたび、何かを考えているような表情を浮かべた。それが、次第に増えていったんだ──。  放課後、隣の席の優ちゃんに声を掛けられたが、早くアヌスに会いたくて「また明日」とだけ返し、ダッシュで帰宅する。  家に着いたら自室に駆け込み、「ただいま!」と大きな声で、昼寝中のアヌスを叩き起こす。腹を掻いて起き上がる様はまるで人間みたいで、彼が死神だという事を忘れていったんだ。 「ねえ、今日は夕方もジョギングしない? あとさ、明後日も行こうよ!」 「なに急に、友樹あんなに運動嫌ってたのに? 明後日なんかあるの?」 「じ、実は……花火大会があるらしいんだ! 僕、友達と行ったことなくて……だからさ、せっかく友達契約してるんだから、これからはこう……もっと遊びに行かない?」  「友達らしくさ」と僕が笑いかけると、アヌスは一瞬だけ怪訝な顔をしたが、少しの沈黙後「いいよ」と俯いて言ったんだ。 「友樹、本当に一人で花火大会行くの? 人多いし何があるか分からないわ、だから私達も一緒に……」 「心配してくれてありがとう母さん、でも僕もう平気だよ。実はね、一人じゃないんだ」 「そう、なの……? 大丈夫なら良いけど、何かあったら必ず連絡するのよ。お母さん達は、いつでもあなたの味方だからね」  母にじんべいを用意して貰った僕は笑顔で「行ってきます」と言うが、両親は不安そうな表情を浮かべていた。 「母さんったら心配性だよね、僕にはアヌスがいるのにさ」 「……友樹以外には見えないからね、キミが毎日自室にこもって独り言を言ってれば心配にもなるじゃないの」 「まあ……今のキミは同じ過ちを起こす事はないと、ボクは信じてるけど」  そう言ってそっぽを向くアヌスは、どんな顔をしているんだろうか。

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