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第8話 友達らしく

 早朝の河川敷はお爺ちゃんお婆ちゃんばっかりなのに、今日に限っては老若男女で無礼講。  ファーストフードが並ぶ屋台を見てアヌスは目を輝かせる、彼にもまだ知らない事があるのか、ラムネを凝視し続けてる。 「それ欲しいの? 買ってあげるよ」 「友樹、喋るなって言っただろ。変な目で見られるよ」 「……こんなに人が多ければ僕達の声なんて誰にも聞こえないよ。2本買ってくるね」  早く飲ませてあげたくて早足で向かう僕の後ろで、「僕たちの声、ね」と復唱してるアヌスに気づかなかった。  初めてのラムネは、普段とろとろで濃厚なシェイクを飲んでる彼には刺激が強すぎたようで、一口含んだだけで「ベロが痛い」と犬みたいに舌を出して呼吸する。  飲めないからと捨てようとする彼の手からラムネを奪い、勿体ない思いから飲み干した。  瓶の口が少し湿っていた。  ──これって、間接キス?  いやいや僕たちは友達だし、そう否定しても胸がドキドキする。この音バレてないかなとアヌスのほうを見ると、今度は綿菓子に夢中だった。 「花火っていいなあ、こんなに美味しいものが食えるなんてねえ。年中、花火ができるようにボクの魔法を使ってみるか」 「……屋台のもの全部食べるとは……アヌスの胃袋どうなってるの? そこにも魔法が詰まってたり?」  彼をからかって笑うと、「キミも底なし胃袋にしてやろうか」とオバケみたいなポーズでふざけてくる。  彼はもう人間と変わらないんじゃないか。  2人していつもの日常とは違うやりとりして、賑やかな祭囃子ともうすぐ始まる花火に心躍らせる。  僕は小さい頃に両親と見たことはあるが、アヌスはまだ人間界では生まれたての赤ちゃん同様。どんな反応を見せるか楽しみにしていると、ヒューと音と共に花火が打ち上がった。  アヌスは頭上に広がる爆音と真っ黒な夜空に描かれる、赤や黄色やオレンジ、青や紫やピンクの数々の彩りを放つ光を見て、涙をこぼす。  飄々としている彼の泣き顔なんて、初めて見た──。  僕はそっと真横に立ち、肩に軽く手を置いて「キレイでしょ、人間界にはまだまだ楽しいこといっぱいあるんだよ」と囁いた。  こっちを見るなり黄金の瞳は涙をごまかそうと光が激しくなって、僕は目が眩んだが彼に笑いかけ続けた。  姿形はこんなにも人間なのに、暗い冥府に居続けてたら感情の起伏も無くなってしまったのか、そもそも僕とは違う生物なのか。  アヌスがどんな生き物でも構わない、もっと色んなことを見て欲しいと思っただけだ。そう自分に言い聞かせた。 「──夏休みねえ、そんな暇があるなら学校の友達と遊びに行けばいいのに。なんでまたボクと出かけるの?」  だって君といるほうが楽しいからなんて言おうとするものなら、魔法で口を塞がれる。  仕方なく、持ってきたメモ帳に『友達と遊びに行く練習に付き合って』と書いて見せた。 「それなら……まあ良いけど」  少し遠出になる事を事前に伝えてはいたが、電車やバス移動で疲れたらしい、彼はぼんやりと外を眺めている。  『もうすぐ着くから……ほら見えてきた!!』と走り書きを見せて、外を指差す。そこには海が広がっていた。  彼は自分とは違う輝きを放つ、青くキラキラと輝く海に釘付けになっていた。

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