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第23話 タツオミからの提案

その日、ハルマは家の事情でタツオミの家には来られなかった。 夏休み前の模試が終わり、タツオミに聞きたいことがあったので勉強会をすることになった。 いつもの部屋は親が使ってるらしく、その日はタツオミの部屋になった。 相変わらず、よく片づいている。 本当に住んでるんだろうか。 模試の振り返りの仕方を教わる。 ただ解き直せばいいんじゃない。 今の勉強が受験当日の何につながるか、タツオミはちゃんと言ってくれる。 「タツオミ……本当に、すごいな……。なんか、泣けてくる。」 「なんで?」 「いや、俺みたいな頭が弱い子でもさ、タツオミの言う通りやれば何とかなるんじゃないか、って希望が持てるのってすごいことだよ。」 実際、俺は家でも勉強するようになり、今回の模試も手ごたえがあった。 「……言われても、やらなきゃ意味ないから、それはリョウスケの力だよ。」 「それだって、一緒にやってくれてるからだよ。場所まで貸してくれて。その……ハルマはタツオミにとってもいいと思うよ。でも、俺は……タツオミの時間ばっかりとってさ、あんまタツオミの役には立ってないと思うんだ。出世する予定もないし……。なんでこんなにしてくれるの?」 気になってたことを聞いた。 「……友達だと思ってるから。」 タツオミはつぶやいた。 「……うん。うん?うん。わかるような、わかんないような……。」 「俺、小さい頃から、よく”タツオミ君はすごいね”って、言われてきたんだ。何も、すごいことはないんだけど。いつも、リーダーやったり、人の面倒みたり。今思えば、それが嫌になってたんだね。高校に入ったら、俺より頭のいい奴がたくさんいて、俺は”普通”になれた。ようやく自分のことだけ考えて生活できるようになったんだ。」 「……そんなこと、考えたこともないや……。」 「でも、なんかね。友達が、いないんだ。仲間、みたいなのはいるよ。同じ目標に向かって、情報交換をして、助け合って、励まし合える仲間。でも、ダラダラとなんでもない時間を過ごせる友達っていないんだ。」 「……俺とも……ダラダラはしてないじゃん。勉強してる。」 「ああ、ちょっと表現がふさわしくなかったね。俺にとっては、リョウスケと勉強するのは”楽しみ”なんだよ。たとえばだけど、女の子と映画見た後に、喫茶店で感想会するみたいな。」 呆気にとられた。 「勉強が、楽しみなの?」 「そう。ああいう話をしてると、リョウスケが何を考えて勉強してきたか知れるし、何にせよ、ちゃんとやるじゃないか。だから次に話を聞くのが楽しみなんだ。」 「へえぇ。俺がその境地をわかる日が来るかは怪しいけど、俺は楽しいしありがたいと思ってるから、タツオミも楽しんでるなら、良かったよ。安心した。」 「何を心配してたの?」 「……なんか……俺がタツオミにしてあげれることがないなぁ…って。いつも、タツオミの言葉に励まされてるから、ハンバーガーをごちそうするだけじゃ済まないな、って思ってたんだよね……。」 「……ふぅん。そう思ってくれてるんだ。」 そう言ってタツオミは俺の横に座った。 「じゃあさ、キスしてよ。」

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