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第34話 印刷室
あれから、カシワギと図書室で話すようになった。
あの頃と変わらず親切で、優しかった。
夏になり、三年生が受験勉強で下校時間ギリギリまで図書室にいるようになる。
この雰囲気は味わえて良かった。
図書委員会からの掲示物を印刷室で印刷していると、カシワギが来た。
「最近、リョウスケ君とは一緒にいないの?」
「はい、ちょっとケンカしちゃって。」
「そうなんだ。なんか、寂しそうだから。」
「俺がですか?」
「そう。元気ないよね。男友達とケンカしたくらいでは、そうならなくない?」
返事に困った。
「……あのさ、また、ハルマを困らせるんだけど……。やっぱり、僕はハルマが好きで諦められないんだ。僕と、付き合ってくれないかな?」
カシワギが切なそうな表情でこちらを見る。
俺も胸が痛い。
カシワギが、どんな気持ちか、わかる。
「……あの……ズルい返事なんですけど……。付き合うのは難しいんです。でも、先輩と……仲良くしたいとは……思うんです。」
「……友達ってこと?」
「友達以上、恋人未満……的な……。」
「……やっぱり、ハルマは恋愛上級者だね。僕じゃわからないけど……。」
カシワギは困り顔で笑った。
そして、ハルマの肩に手をかけて、ハルマの耳元に顔を近づけた。
「それって……キスはいいの……?」
「……はい……。」
ハルマは小さく返事をした。
カシワギは、ハルマの頭に手を添え、ハルマを見つめてから静かにキスをした。
あの時と変わらない、温かくて柔らかい唇だった。
――――――――――――
リョウスケは、先生に頼まれて、印刷室に向かっていた。
そして、見てしまった。
ハルマが、カシワギ先輩とキスをしているところを。
無理矢理されているわけじゃなさそうだった。
複雑な気持ちになった。
どうしたらいいかわからない。
もやもやしていると、他の生徒が印刷室に向かってきた。
俺は身を隠して、大きく咳払いをした。
ちょっと間をあけてチラリと見ると、二人は離れていた。
二人が印刷室を出るまで隠れて待っていた。
ため息しか出なかった。
―――――――――――――
家に帰り、ハルマに電話をした。
出ない。
もしかしたら、今頃、夢中になってヤッているかもしれない。
キスで乱れるハルマ。
体を弄ばれて興奮するハルマ。
イカされるハルマ。
相手は、学校一の優男、カシワギだ。
あんなにモテるのに彼女がいないので、ゲイ疑惑があった。
二人なら、お似合いだ。
カシワギなら、ハルマ一筋で優しくしてくれそう。
やっぱりため息しか出ない。
せめて、一度話したい。
俺はスマホを開くが、何の反応もなかった。
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