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第53話 スマホ

「二人とも、先に帰っていいよ。三人で出るのは嫌でしょ。」 そう言われて、お言葉に甘えた。 風呂場から出ると、ハルマはすでに服を着ていた。 俺もそそくさと服を着てホテルを出る。 「リョウスケ……大丈夫だったの?」 「うん、まあ……。」 その辺りの記憶はあまりないが、駅でまた先輩と会ったら大変なので、すぐに電車に乗った。 「……実は今日、タツオミにも来てもらってたんだ。」 「そうなの?」 「ホテルに入る前に分かれたけど……。ちょっと連絡するね。」 俺はスマホを探した。 ない。 ない。 スマホが、ない。 「スマホがない……。」 「……電話してみようか?」 ハルマがかけてくれるが、服からもカバンからも鳴っている様子がない。 「ホテルに置き忘れた……かな……。」 「駅に着いたら、ホテルに電話してみるよ。」 ハルマにそう言ってもらい、早速駅について電話をかけようとした。 ハルマのスマホに着信が入る。 先輩のスマホからだ。 「もしもし……。」 ハルマが電話に出る。 『ああ、ハルマ?カシワギだけど……。』 「先輩……。」 『リョウスケ君、スマホ忘れたみたいだね。明日、学校に持って行くよ。放課後、図書室に来てって伝えて。』 「はい……。そう伝えます。」 そんな会話だった。 しばらくはカシワギ先輩と会わなくて済むと思っていたのにコレだ……。 「リョウスケ、大丈夫?」 「大丈夫じゃないけど、行くしかないよね……。」 場所は学校だ。 スマホを返してもらうだけだし。 きっと大丈夫。 いや、ハルマは学校で2回キスされてるから、油断はできない。 けど、さすがに尻は大丈夫だろう。 俺はこんな目に遭ってなお、カシワギ先輩の怖さを理解し切れていなかった。 ―――――――――――― 翌日の放課後、俺は図書室に行った。 ハルマには、すぐに先輩と顔を合わせるのは可哀想だと思って、ついてこなくていい、と言った。 タツオミには、ハルマはキスされたくらいだと伝えてある。 タツオミは頭がいいから、時間的に変だと思っていると思う。 でも、それ以上は聞いてこなかった。 図書室にはたくさん人がいて、安心した。 カシワギ先輩も勉強していた。 黙っていると、本当にモデルみたいだ。 昨日のことは悪い夢かと思う。 「先輩……。」 近づいて、声をかける。 「ああ、ごめん、気づかなくて。今片付けるから。」 この場でヒョイっと返してくれるわけじゃないらしい。 「ちょっとお茶しない?」 こんな時、予備校があるんで!と、嘘でも言えない自分が情けない。 俺たちはハンバーガーショップに入った。 先輩はお腹が空いているらしく、ハンバーガーとナゲットを頼んだ。 自分はコーラにする。 「ナゲット食べていいよ。全部は食べれないから。」 「あ、ありがとうございます……。」 昨日の、デート中の優しい笑顔。 今の先輩もそんな感じだ。 ホテルの時の豹変はなんなんだろう。 「あの……スマホ、持って来てくれてありがとうございました。」 「気づいて良かったよ。」 そして、その後の先輩のセリフに俺は驚愕した。 先輩は、俺のスマホのロックの暗証番号6桁を言い当てたのだ。

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