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第64話 紳士同盟
「国語の記述だよね?正直に言うと、僕はさすがに高校生の大学受験に責任を持てるほどはできないな。けど、ここの家主のヒビキなら教えれるよ。彼は大学時代、予備校講師のバイトで国語と小論文対策をしていたから。今は弁護士だし。」
やっぱりガチ社会人だった。
「弁護士……って、忙しいんじゃないですか?いいんですか……俺のために時間もらって……。」
ちょっと恐縮する。
「本人が大丈夫っていうから、いいんだと思うよ。毎日じゃないし。」
「あ、ありがとうございます……。」
急な人間関係の広がりに、ありがたいと思う反面、戸惑う。
弁護士なんて、なかなか身近にいない。
「ヒビキは剣道の先輩で、ほら、前に言ったじゃん。ヒミツ倶楽部のメンバーの一人。」
先輩がお茶をすすりながら言う。
ヒミツ倶楽部とは、同性愛に興味がある、紹介制の集まりみたいなものだ。
「そうなんですね……。その、倶楽部のことは、俺は知ってるってことでいいんですか?」
ヒビキさんのことを、ただのルームメイトなのか、恋人同士なのか、倶楽部メンバーなのか……俺がどこまで知っているか、口裏を合わせておかないと。
「それなら、リョウスケのことは、”倶楽部の新メンバーだ”って、紹介してるよ。」
「な!なんでっ?!」
身内扱いって!
「確かに、きっかけは性的だけど、紳士同盟みたいなところもあって、損得抜きの相互扶助の役割もあるんだよ。逆に、入る条件が同性愛……って考えもできる。」
「そ、そうなんですね……。」
なんかすごい世界だ。
条件、なら合ってるけど。
「もうそろそろ、帰ってくるよ。先に、過去問見せて。」
先輩に過去問を渡す。
先輩は真剣に文章を読んでいる。
図書室で先輩が勉強している姿は見たことがあるが、あれからたった半年しか経っていないのに、先輩がだいぶ大人に見えた。
「自分の解答もあるの?」
「あ、はい!」
自分の解答と、模範解説を渡す。
先輩の顔がみるみる険しくなっていく。
「……リョウスケ……あんなエロ漫画ばっか読んでるツケが回ってきてるね……。」
「ちょっ!それはっ!そうだけどっ!」
反論の余地はないけど、そう言われるとイタイ。
半泣きメンタルになったところに、玄関のドアが開く音が聞こえた。
「おかえりなさい。」
カシワギ先輩がヒビキさんに声をかけた。
「あ、もう来てたんだ。ごめん、時間を勘違いしてた。待たせたね。」
ヒビキさんは落ち着いた雰囲気だが、明るく言った。
「はじめまして!伊藤リョウスケです!よろしくお願いします!」
俺は立ち上がって挨拶をした。
「荒井ヒビキです。よろしくね。」
ヒビキさんは軽く微笑んだ。
背が高くて、がっしりした体つきだ。
剣道はやっぱりインターハイに入賞するくらいの腕前で、武道経験者らしいオーラがある。
顔立ちがハッキリしてるので、ちょっと怖そうだが、話し方や表情は優しそうだ。
「リョウスケ……僕と初めて出会った時と、大分態度が違うね。」
先輩との初対面は……
実はあのラブホの部屋の前だ。
態度が同じわけない。
「しょうがなくないですか……?」
俺は悪くない。
「いや、礼儀正しくもできる子なんだな、って。」
「逆です!逆!こっちが本当の俺で、あの時が異常なんです!」
先輩もヒビキさんも笑っている。
ヒビキさんは訳知り顔だ。
「リョウスケは、僕の好きだった人の彼氏で、他に二番目の彼氏もいて、僕は三番目……っていう関係なんだ。」
「へえ。大型新人だ。」
「いやいやいや!変な紹介の仕方!辞めてくださいよ!タツオミは彼女ができたし、先輩とも何もしてないじゃないですか!」
俺という人間の尊厳が危ぶまれる。
「こういうのはさ、最初に言った方が気楽でしょ?」
カシワギ先輩はにやにやして言う。
「まあ……もう……取り繕う必要はないですね……。」
一回泣いてもいいかな……。
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