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第65話 後輩

先輩がヒビキさんに飲み物を用意している間に、ヒビキさんは過去問と俺の解答を読んだ。 「読む文章の質と量を上げて、要約練習と意見をまとめる訓練をすればいいんじゃないかな。」 先輩がコーヒーを淹れて持ってきた。 俺には紅茶だ。 「僕もそう思う。たぶん、問題の答えをただ出すだけの受け身な勉強だけじゃ足りないんじゃないかな。自分の頭で考えて、さらにアウトプットしないと。」 二人の意見が合うならそうなんだろう。 そこはそれでがんばろう。 それにしても… 「……なんで俺は紅茶なんですか?」 「リョウスケはまだ、お子ちゃまだから。」 「コーヒーくらい飲めますよ!」 美味しいとは思わないけど。 先輩は小ばかにしたように笑っている。 「専用のテキストがあるから、それを週1でトレーニングかな。課題を出すから、要約とそれに対する自分の意見を書いてきてもらって、俺が添削するよ。内容を正確に把握しているかと、日本語が正しく使えているかを見て、鍛えていく感じ。」 ヒビキさんがコーヒーを飲みながら言った。 「はい!わかりました!ありがとうございます!」 週1なんて、ありがたすぎる。 「そのトレーニング、俺もやっていいかな?」 「添削手伝ってくれるの?」 「あ、いや。添削される方。俺も塾でバイトするから、指導できるようになりたいんだよね。」 いくらバイトで必要なこととはいえ、受験が終わっても勉強するなんて……。 先輩の向上心に感心した。 「サンプルが多い方が、リョウスケ君も気づきが多くなっていいかもね。どうかな?このやり方。」 こちらを真っ直ぐ見られて、ドキッとする。 「はい!よろしくお願いします!」 ヒビキさんは凛々しくて、誠実そうだ。 なんていい人なんだろう。 カシワギ先輩がいい人かは微妙だけど。 「じゃあ、ちょっと教材探してくるね。」 ヒビキさんは席を立った。 「……あの……次回、お礼にヒビキさんの好きな物を買ってきたいんですけど、何がいいですかね?」 「別に、何もいらないよ。高校生なんだから、無理しないで。僕もヒビキも、可愛い後輩だからやるのであって。いつかリョウスケも、自分がしてもらったように後輩を可愛がってあげればいいよ。」 懐が深い。 俺もいつかこんな大人になれるだろうか。 「本当に、ありがとうございます……!」 座ったままだが、先輩に礼をした。 「ちなみに、ヒビキは服を着たままするのが好きだし、僕はお風呂でイチャつくのが好きだから。」 「……だから……?」 「ヒミツ倶楽部の可愛い後輩として、よろしくね。」 先輩がニヤッとする。 そっちの後輩として……。 笑えないけど、冗談であってほしいと願った。

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