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第68話 カシワギ先生
リョウスケは、次の回にちゃんと課題をやってきた。
僕の解答はあらかじめ、ヒビキに渡してある。
ヒビキはリョウスケのを読むと、本文の理解度を口頭で確認した。
ヒビキの質問の仕方が弁護士すぎて、まるで、リョウスケは裁判時の被告人だ。
笑ってしまう。
「ちょっと!先輩、いくら俺の出来が悪いからって、笑わないでくださいよ!受験生はナイーブなんですから!」
「ごめん、ごめん、違うんだ。本物の弁護士に尋問されてるからさ。」
なんかツボった。
「ああ、確かに。ごめんねリョウスケ君。怖かったかな。」
「いや!全然!ヒビキさんは優しいです!意地悪な先輩と違って!」
僕は意地悪かもしれないが、リョウスケの変態思考にはかなわない。
リョウスケに自覚がないのが恐ろしい。
「じゃあ、今のリョウスケ君の話を踏まえてなんだけど……。内容の理解はできてるよ。選択問題の正答率もいいしね。記述は、語彙が曖昧だから、理解できていることを採点者にアピールできてない感じ。普段から、こういう文で使われている言葉を、自分でも使えるように意識した方がいいね。」
「わかるだけじゃ、ダメなんですね。」
「わかったつもりで終わっていることが多いから。」
リョウスケは感心しているようだ。
「意見の方は……ちょっとやっぱり浅い感じがするね。ニュースで取り上げられていることに、いちいち自分で考えていくようにしてほしいな。わからないことは……そこのカシワギ先生に聞くといいよ。」
「僕?」
「カシワギ先輩もいいんですけど……せっかくなら、ヒビキさんに教えてほしい……です。」
よく本人の前で言うな。
リョウスケは目が泳いでいる。
「リョウスケ、ヒビキの法律相談は、30分でいくらだと思う?」
「………………三千円とか?」
「五千円だ。」
「時給一万円?!」
「それでも赤字らしいよ。」
リョウスケは唸った。
「まあ、それは置いといて。ミナトはやっぱり小学校の先生を目指してるだけあって、話がわかりやすいよ。その説明の仕方のコツを学ぶのもありだと思う。」
「……わかりました……お世話になります。」
リョウスケから隠しきれない不服そうなオーラが出ている。
「ミナトの分は、コレね。添削したけど、特にコメントはないよ。模範解答が一つ増えたようなもんだね。」
解答用紙には花丸がついていた。
その後、ヒビキは表現の指導をして、用事を足しに外出した。
残った僕とリョウスケで、本文内容の理解を深める質疑応答をした。
これまで、リョウスケとは性的な話題しか話してなかったが、まともな話でもそれなりに話せる。
ちょっとみくびり過ぎていた。
「勉強、してきた感じがするよ。」
「……ホントですか?」
リョウスケは嬉しいのか、顔が赤らんだ。
スマホを預かった際にタツオミとのやりとりを覗き見したときは、キスの約束こそ変態だけど、大体は勉強会の日程のやりとりだった。
勉強会がいい刺激になってるんだろう。
「どう?大人の勉強会の方は。」
ヒビキのような社会人に関わるのも一つの勉強だ。
こちらの勉強会では、タツオミのともまた違ったいい緊張感があるだろう。
リョウスケは、変に唇を噛みしめ始めた。
これは、リョウスケがスケベなことを考えている時の顔だ。
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