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偶然の出会い 1
華の金曜日。何処もかしこも人で賑わう繁華街から少し外れた場所にあるBAR Ruby。
以前は静かにお酒を楽しむ場所だったが、方向転換したのか店先に「出会いBARRuby」と看板が出ていた。
木製の重厚な扉を開いて店内に入ると内装もガラリと変わり、立ち飲みスタイルになっていた。沢山の甲高なテーブルが並んでいて、Ωがαに擦り寄り誘惑しているのが目に留まる。
一夜の相手からカップル探し、目的は違えど出会いを求めているものばかりだ。
僕は場違いな雰囲気を感じながらも、カウンターに移動した。
「マスター。バーボンで」
「承りました」
マスターとは顔見知りで店が様変わりしたことを伝えたると苦々しい顔をしていた。
どうやらRubyの経営をしていた会社の方針で、ただ酒を飲むだけの場所では時代のニーズに取り残されと考えてのことだそう。
飲食店は流行り廃りがあり、流行やニーズに合わせてリニューアルするのはよくあることだ。
注文していたバーボンを受け取り一口呑んでいると隣から、無遠慮な存在が現れた。
「君一人だろ。よかったらこの後どう?」
いきなり声をかけてきた男は軽薄だが、身なりは気にしているようで、全身オーダースーツを纏い〇〇ックスの高級腕時計を付けていた。
口調は誘い慣れしているような軽さがあって、僕の嫌うタイプだ。
「結構です。他を当たってください」
「ここに来たんだから、そう言う目的だろ」
少し不服そうな物言いの男を睨みつけて、明らかに不機嫌な表情を向けた。
「目的は人それぞれです。構わないでください」
「ちっ、お高く止まりやがって、Ωのくせに選り好みしてんじゃねぇよ」
αによるΩ差別が法整備などで、緩和されつつあるとはいえ偏見や見下したような態度を変えない者もいる。まさしく目の前にいる男がその典型。
αの差別を受けて苦しむΩを見てきた僕は、男の言葉に言い返そうとした時、右隣に気配を感じた。
「その辺で止めておいた方がいい。ここにはΩの人も沢山います。あなたの偏見はここにいるΩ全てを敵に回す発言ですよ」
「はぁ?お前なんなの?ヒーロー気取りかよ」
「いいえ、そんなつもりはありません。ただご自分の首を絞める行為だと言っているんです」
右隣の男は淡々と軽薄な男を言い負かしている。二人の会話を周囲の人も聞いていたのか、「出て行け!」「差別発言反対!」など口々に叫んでいるのが聞こえる。
やがて軽薄な男は居づらくなったのか、言い返すことなく店を出て行った。そして周囲の人たちは何事もなかったかのようにテーブルへと戻っていく。
「大丈夫でしたか?酷いことされていませんか?」
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
「いいえ。かえって余計なお世話だったらどうしようかと思ったのですが、困っていたみたいなのでつい」
爽やかな笑顔を向けてきた男の顔が、あまりにも整っていて思わず見つめてしまう。
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