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偶然の出会い 2
「あの、差し障りなければお名前を教えて頂けませんか」
普段なら初対面の相手にいきなり名前を聞くような無粋な真似をしないが、この時ばかりは自然と言葉に出てしまっていた。
互いに名前を名乗り、男は怜央 と名乗った。
「郁美さんはよくお店に来るんですか」
「来るのは久しぶりです。以前はよく来ていました。怜央さんは?」
「僕もですよ。行きつけでよく来ていました。いつの間にかコンセプトが変わり、出会いの場になっていたとは思わなくて驚きです」
怜央は爽やかで優しい口調で、聞いていて心地よいものだった。
僕は関わりたくない相手に対して冷たく接するようにしているのだが、何故か彼だけは例外だった。
「僕も驚きました。お店に入ってすぐにαの方々から、鋭い視線を向けられて……」
「実は僕もΩの皆さんに迫られていて、もし良ければこのまま隣に居させてくれませんか」
眉を寄せ浅い皺を作った怜央の助けになるならと思い、「僕でよければどうぞ」と返した。
「お礼にお酒を奢らせてください。同じものでいいかな」
「ありがとうございます。頂戴します」
怜央はマスターに声をかけ、今僕が手にしているものと同じお酒を注文してくれた。次のお酒が来るまでの間にグラスに残った酒を飲み干した。
やがて現れた琥珀色のグラスを受け取りちびちび口を付ける。
「さっきの男の発言。僕は嫌いだな」
「珍しいですね。αは基本的にΩを下に見ていると思っていました」
「よく言われるよ。でも僕にとってΩだからとかαだからとか関係ないんだ。人は等しく平等であるべきだと思う」
法整備がされ少し生きやすくなったとはいえ、αによる責め苦で自殺するΩは後を立たない。一定数いるΩ優遇措置の反対派はまさに虐げる側に当たる。
怜央のようなαに会ったことがなく、衝撃的な発言だった。
「真の平等はないんじゃないかと思います」
「みんなバース性に囚われて人の本質を見失っている。心で惹かれ合うってことが大切なのに、Ωをαを産むだけの存在だと思っている。その意識が変わらないと難しいかな」
「変わっていますね。僕を庇って同じαと言い合うなんて」
「彼のような人が同じαだと思うと悲しくなるよ」
俯き悲しげな表情の怜央がちびちびとワインを飲んでいる。そんな姿ですら、目が離せないくらいの迫力があった。
「怜央さんは優しいですね。そんな人たちがもっと増えてくれれば、Ωも生きやすいんだろうと思います」
「君はΩじゃなくても魅力的だよ。だから助けずには居られなかったんだ」
ストレートな口説き文句に珍しく心が高鳴った。驚く暇もないほど忙しなく、鼓動は脈打っている。
これが彼との出会いだった。
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