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偶然の出会い 3
「秦 さん。ハニワさんから連絡があり、医師との面談に立ち会いしてほしいとのことでした」
「わかりました。医師は何時ごろ来られますか?先にご挨拶だけでもしたいのですが」
「約束の時間には早いのですが、実はもう面談室に来られているんですよ」
僕は役所の福祉課に務め、バース相談室の相談員として日々仕事をしている。
相談内容は多岐に渡り、秘匿性は保証されている。だからハニワさんというのも仮名だ。
相談室で話される内容は必要な支援を行う上でのみ最低限情報共有が行われる。
早速、医師に会うべくパソコンをスリープモードにして、席を立った。
隣のブースに併設されている面談室Bの扉を叩く。
「はい。どうぞお入りください」
「失礼いたします」
扉を静かに開けて入室し、丁寧に会釈した。顔を上げてソファに座る人物を見て驚く。
二週間前にBARで顔を合わせた相手がそこに居たのだ。
「え!?」
「改めまして私はこういうものです。以後お見知り置き下さい」
怜央に差し出された名刺を受け取り、記載内容を確認する。
加賀崎病院副院長、加賀崎研究所管理責任者、株式会社加賀崎製薬CEO。加賀崎怜央 と記されていた。
長い肩書きに目が回りそうだ。
バースに関する研究は加賀崎研究所が政府の認可で、一手に行なっているのは誰もが知ること。
加賀崎製薬がその研究結果を基にして薬を製造。
その薬を処方し、バースに関連する治療を行うのが加賀崎病院である。
誰もが知る大物を目の前にして、緊張で手が汗ばんできた。
平静を装いながら、僕も名刺を差し出した。
「私は相談員の秦郁美 と申します。この度は相談者様の希望で面談に立ち合わせて頂くことになりました」
「立ち会いの件、了承しました。相談者様が落ち着いて話せるなら、その方がいいでしょう」
あくまでもBARで会ったことには触れない。
仕事に関わることだけを淡々と話す怜央はあの夜と変わらず、笑顔を浮かべている。
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