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番解消したくて 2
「万羽は恐ろしい男です。怜央にまで危害が及ぶかもしれません」
「僕の素性は知ってるよね。実は政府が護衛をつけてくれて、警官も常にそばにいるんだ。因みに今は個室に移ったから部屋の直ぐ前で待機してる。もちろん会話の内容は聞かれてないから安心してね」
「甘えて良いんでしょうか」
「良いんだよ」
怜央の優しい手がサラサラと頭を撫でた。心地よくて反射的に擦り寄ってしまう。
「でもどうしてそこまで親切にしてくれるんですか?知り合いだから?」
「知り合いだからって誰でも自宅に呼ばないよ。郁美だから」
「僕だからって?」
「言うつもりは無かったんだけど、前回会った時に一目惚れしたんだ。あまりの綺麗さに見惚れてしまった」
怜央の言葉からは自分のことだとを言われているのだと想像出来ず、別の人のことだと錯覚してしまう。
「今日、郁美と会って仕事している姿が素敵で、さらに好きになった。真面目で相談員として誠実に話を聞いていたよね。人はどうしたって他人事になると聞き流したり、適当な返答をしがちだけど、君は違った」
「そんなに褒められたら……」
「何度だって褒めるし、愛を伝えるよ」
優しい胸にしがみつき、背中に手を回して怜央の好意を受け入れた。この人と一緒に居たいと思える何かがあったから。
「僕を怜央のところに連れて行って」
「うん。じゃあ早速行こうか。車呼ぶね」
手際よく車を手配してくれた怜央にお礼を伝えた。
優しい怜央に連れられてBARを出て、絶妙なタイミングで現れた車に乗り込んだ。
「ここから15分くらいで着くからね」
「はい。ありがとうございます。ところで万羽からの連絡はどうすればいいですか?帰ってこないと着信があると思います」
「スマホは僕が預かっておくよ。彼からの着信に出るのはあまりお勧めしないから」
「わかりました」
スーツのポケットからスマホを取り出して躊躇なく手渡した。万羽と決別する覚悟を決めなければ、いつまで経っても離れられない。
だから怜央には悪いが、番解消するまでお世話になろうと思う。
「新しいスマホ渡すよ。データ移行しておくからね」
「はい。ありがとうございます」
そんな話をしていると蛇行していた車が地下へと向かって坂を降りていった。どうやら到着したようだ。
「怜央様、郁美様。到着いたしました」
そう言って運転手が後部座席の扉を開くと頭を下げていた。
「郁美様。私、怜央様の専属執事をしております。|三木《みき》と申します。ちなみにβです。以後お見知りおきください」
「よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀を返して、怜央に導かれる様に車を降りた。三木さんに連れられてエレベーターに乗り込む
「では怜央様。郁美様。本日はこちらにて失礼致します。明日朝、お迎えにあがります。お疲れ様でした」
エレベーターの扉が開かれたまま三木さんにそう告げられて見送られた。
扉が閉じエレベーターで怜央と2人きりになった。
「郁美。怖くないかい」
「え?」
「君を救いたい一心で自宅にくるよう言ったけど、よく考えたらお互いまだよく知らない。なのにいきなりで怖くないのかと思ってね」
「あなたはいきなり襲い掛かるような人じゃない。危害を加えるつもりなら、お酒を奢ってくれた日に薬を仕込むこともできたでしょう」
万羽に対しては怖さしかなかったのに、怜央に対しては安らぎを感じている。恐怖なんて微塵も感じなかった。
自分でも何でって疑問に思うけど、人生で初めて一緒にいたい相手が怜央だったのだ。
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