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番解消したくて 3
怜央の所有するマンションに招かれ、食事を済ませて入浴した後で手術についての説明を受けた。
詳しくは手術前に話すとのことで、手術に備えて休み支度を整えた。
程よいスプリングの効いたベッドで横になると、疲れていたのか、直ぐに睡魔が訪れる。そのままあっさりと眠りについたのだった。
怜央はまだしないといけないことがあるらしく、寝室に来たのがいつのことになったのかは知らないまま。
☆☆☆☆☆☆☆
翌朝。
「ん、ぅ……」
寝ぼけ眼で目覚めると隣には、昨夜自分を部屋に招いてくれた怜央がいた。寝顔は少し幼く見えて、まつ毛が長く、少し茶色いことを発見した。
一定のリズムで呼吸して眠る寝顔をしばらく見つめている。
「眠り姫の寝顔をそんなに見られたら、穴が空いちゃいそうだよ」
「え?起きてたんですか。それと眠り姫って……」
「郁美。おはよう。眠り姫は僕だよ」
寝顔を盗み見していたことがバレて、少し恥ずかしく顔が熱くなる。
「どうしたの顔真っ赤だよ。可愛いね」
腰を抱かれて優しく引き寄せられて、鼻がくっ付くくらい近い距離で怜央に見つめられる。
今までの人生で可愛いなんて言われたことがなくて、かなり照れ臭い。
「可愛い?」
「そう。郁美は可愛いよ。気を遣ったり、冗談で言ったんじゃないからね」
「これ以上恥ずかしいこと言わないで下さい。僕の心臓はち切れますから」
恥ずかしすぎて怜央から逃れようとするが、力及ばず。髪を撫でられたり、手を握られたり、好き放題されてしまった。全ての行動がスマートでかっこ良い。
優しいスキンシップは初めてで、どうすればいいのか分からない。
「そんなこと言うから可愛くて、触れたくなってしまうんだよ。それに好きな人の照れた顔もっと見たいな」
「もうやめて下さい。こんなの慣れてないんです」
「これから毎日、僕は郁美を甘やかすよ。好きな人にはそうしたいんだ」
怜央の真っ直ぐな好意はくすぐったい。気の利いた事でも言えればいいのに、慣れてなくて言えない。
この人と生きていきたいって思ったこと、ちゃんと伝えたい。だから代わりに今までで1番優しく名前を呼んだ。
「怜央」
「はい。なんですか」
「僕を連れてきてくれてありがとう。暴力に耐えるしかないと思っていました。でも今はあなたと一緒に居たい。可愛がられたいし、甘やかされたい。こんなこと初めてです」
「まだ全て終わったわけではないけど、少なくとも穏やかに目覚められて良かったね」
優しく抱き寄せる怜央の鼓動は表情と同じで穏やか。
安らぎと心地良さを与えてくれる環境を大切にしたいと僕は密かに思っていた。
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