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決断の時、番解消 3

 同意書を受け取った怜央に「最後に何か聞きたいことはない?」と聞かれ、疑問に思ったことを質問することにした。 「僕がオペで番解消したことは相手が知ることはありませんか」 「番関係には本能的な結びつきが大きく、繋がりには精神的なものも大いに関係している。その全てが断ち切られるから、会えば感じ取られる可能性はあるだろうけど、オペの希望者が元番に会うことはないよね」 「じゃあ知られないですか」 「トップシークレットだから、研究所が知らせを送ることはないよ。郁美は万羽に会いたいとは思わないでしょう?」  万羽と過ごした日々は辛いことしかなかった。モラハラ、DV、合意無しのセックスなど数えきれないことをされてきた。別れるといえば監禁され、食事や排泄の自由も与えられなかった。そんな酷いことをした相手に会いたいとは思わない。 「二度と会いたくないです」 「だったら知る術はないかな。他に聞きたい事ある?」 「いいえ。今のところはありません」 「じゃあこのまま検査に移ろうか」    説明が終わり怜央に案内されて幾つか検査を受けた。結果は健康そのもので問題ないと診断された。そして妊娠はしていないことが分かり安堵した。  子供のことはお互い話し合って作るならまだしも、支配的で暴力的な彼との子は望んでいない。 「妊娠していなくて良かった。妊娠していたら大変だ」 「はい。避妊なしの好意を強要されていて、怖くて緊急避妊ピルを飲んでいました。医師に相談したら避妊用のピルもあるからとそれを服用していたお陰かなと思います」 「辛い思いをたくさんしてきたんだね。でも大丈夫だよ。今日からは何もかも変わる。新しい人生のスタートを僕に手助けさせてね」  優しさと安心で包み込んでくれる怜央のことは怖くないし、頼りにしている。もっと早くこの人と出会いたかった。  サラサラと頭を撫でて励ましてくれる彼を見て頷く。    怜央に導かれて部屋を出てオペ室へと向かった。 「僕が執刀するから郁美は委ねてくれれば良いからね」 「はい。よろしくお願いします」  大きな自動扉が開かれて看護師に導かれるまま、手術室に入った。沢山の見たこともない機械や手術着をきた人たちがいる。  シルバーの冷たそうなベッドへうつ伏せになるよう言われて素直に横になった。  少しして自動扉が開かれて足音が側で止まる。 「では只今より処置を行います。郁美、また後でね」 「はい。よろしくお願いします」  怜央が優しく手を握ってくれた。緊張や不安が一気に緩み、体の力が抜けていった。  そしてやがて流し込まれた全身麻酔によって意識が徐々に薄れていった。  これから始める新たな人生のスタートが健やかで幸せに溢れたものであること、心の中で密かに願った。 *********   「ん……」  重たいを目を開いてボヤける視界の中、腕をなんとか動かして手探りで周囲を探る。  徐々に視界が鮮明になっていくと白い無機質な天井が目に入った。漸く状況を思い出す。 「あぁ。よかった。目が覚めたんだね」  直ぐそばから聞こえた優しい口調の低音には覚えがあった。 「怜央?」 「麻酔がなかなか解けなくて一日眠り続けていたんだよ。心配した」 「そうだったんですね。心配かけてすみません。それで手術は?」 「無事成功したよ。これからチョーカーの調整を行うからね」  万羽との結びつきが消えたんだと思うと心底安心できた。それから首にチョーカーが付けられていることに気が付く。  そっと首元に触れてみるとそこには確かに硬質な物体が付けられていた。  怜央がタブレットを持って側によるとチョーカーがピピピッと音を立て始めた。彼は画面を見ながら作業している。 「痛いところはない?頸どうかな」 「痛くないです」 「痛み止めが効いているから大丈夫そうだね」  穏やかな表情で見つめてくる怜央に優しく頭を撫でられた。  彼に助けられて人生が変わった。誰も助けてくれないだろうと絶望し、生きることを諦めたこともあった。でも死ぬことができなくて一生万羽に囚われるしかないのだと思っていた。  でも今は違う。僕は自由だ。何者にも囚われていない。自由に恋していいんだ。  せっかく変えられた人生、二度と同じことは繰り返したくない。              

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