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新たな人生と将来の約束 3
「僕が行くことに不安や懸念はあるだろうけど、郁美に行かせたくない。僕のわがままだけど、もう帰ってこない気がして怖いんだ」
「何処にも行きません」
「でも万羽が君を離さないかもしれないだろう」
その可能性は大いにあると分かっていて僕がいくのは得策じゃない。安全確保がされているなら怜央が行っても大丈夫だろうか。
「わかりました。怜央にお任せします。でも無理しないでくださいね。お金よりあなたの方が大事ですから」
「うん。無理はしないよ。生活費の心配はしなくて良いんだからね」
「ありがとうございます。でも養ってもらおうとは思いません」
Ωが生意気言うなと思われるかもしれないけれど、僕にだって男としてのプライドがある。怜央の収入が多いのは解るけど、それでも全て頼るのは違うと思う。
「養って当然だとは思ってないよ。でも頼ってくれて良いんだからね。金銭的に辛い思いをさせたくないってだけ」
「ありがとう。本当に困った時は助けてくださいね」
「うん。お互い頼り合って生きていこうね。一人じゃないからさ」
怜央は意見を押し付けたり強制するようなことはしなかった。お互いを尊重して折り合いを付けようとしてくれて素直に嬉しい。
彼を大切にしたい。失いたくない。側にいたい。こんな風に思うほど、怜央のこと好きになっていたんだと漸く自覚した。やっぱり僕はちゃんと好きなんだ。
「怜央。好きです。僕の側にいてください」
「僕も好きだよ。これからずっと側にいる。心はいつも共にあるからね」
優しく数回頬に触れるだけのキスが落ちてきた。その感触を確かめるように頬に手を当てる。
「大切にしたい。でもたまにこうして溢れてしまう。ごめんね」
「ビックリしたけど大丈夫ですよ」
「そんな風に甘やかしたらもっとイケナイことしちゃうかもしれないよ?」
怜央は意地悪そうに片方の口角を上げて笑うとウインクした。日本人離れした美貌に青い瞳を持つ彼は誰が見ても王子様のようで、そんな人のウインクは破壊力が半端ない。
「これ渡しておくよ」
徐に握り拳を差し出されて、手のひらで何気なく受け取った。手を開いてみると鍵だった。
「僕のマンションの鍵だよ。明日帰ってくる時に必要でしょう」
「はい。ありがとうございます。このキーホルダーは?」
「ピヨたんっていうひよこのキーホルダーなんだけど、可愛い患者さんに貰ったんだ」
黄色いフワフワモコモコした小さなひよこが鍵に付いていた。ピヨたんは子供番組に出てくる愛らしい着ぐるみで、大人が持つにしては可愛すぎる。
可愛い患者さんという言い方に少しムッとしたのは気のせいじゃない。
「可愛い患者さんって?」
「小児科の子でね。手術のお礼にってくれたんだけど、外した方がいい?」
「いいえ。そのままで良いですよ。ただ可愛い患者さんっていうのが、どんな人なのか気になって……」
「もしかして僕が他の誰かを可愛いって言ったのが気になったの?ヤキモチかな」
認めたくはなかったけど、ヤキモチを焼いたのだろう。まだ僕は怜央に可愛いなんて言われたことなかった気がしたから。
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