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愛の巣で始める二人暮らし 1
昨日着替えを手伝われた後、帰った怜央を見送り暇な時間を過ごして眠りについた。やっぱり術後で疲れていたのか、途中で一度も起きることなく朝を迎えた。
朝8時半ごろ個室にやってきた怜央と一緒に研究所を出て、これから二人で暮らすマンションへとやってきた。
以前、一晩泊まった部屋に今日からはずっと生活することになる。
「おかえり」
「た、ただいま」
「今日からここが僕たちの愛の巣だね」
愛の巣ってなんて素敵な響きだろうか。嬉しくて胸が躍る。
万羽と一緒に住んで居たが無理矢理同居していたに過ぎない。それに恋人関係ではなく、主従関係に近かった。逆らえば暴力や暴言を浴びせられて服従させられる。嫌な記憶を早く忘れてしまいたいのに、時々顔を出してひどく胸がざわつく。
「郁美。どうかした?」
「いいえ。ただ万羽とのことを思い出してしまって胸が痛むだけです」
「彼とも一緒に住んでいたからかな」
「でも万羽とは僕が望んだことじゃない。怜央と住むことは僕が望んだことです。全然違う」
怜央は優しく微笑み、頭を撫でてくれた。これ以上不安にならないようしてくれているのだろう。こういう優しい所も好き。
「思い出して辛くなったら言っていいんだよ。僕に後ろめたいとか思わないで」
「はい。わかりました。ありがとう」
「そういえば部屋を模様替えしたんだよ。君の部屋あるから見て」
少し重い空気を断ち切って怜央に連れられ部屋を移動する。
「元々誰も使って無くて、何もなかったから家具を入れてみた。どうかな」
「ありがとう。助かります」
部屋には収納がたくさんできる棚とパソコンデスク、姿見など生活に困らない家具が置かれていた。ウォークインクローゼットも勿体無いくらい広い。
「夜は僕と寝てくれるかな。だからこの部屋にベッドは入れてないんだけど……」
「はい。怜央が良ければ一緒に寝ましょう」
「ちなみに隣は空き部屋なんだけど、シングルベッドがあるよ。弟が泊まりきた時に使ってる」
「弟さんと仲良いんですね」
僕には兄弟がいないから少し羨ましい。
喧嘩することもあるだろうけど、血を分けた兄弟というのはどんなものだろうか。
「泊まりに来るのは次男の茉央 だよ。帰国のたびに泊まりに来るから、仲はいいんだと思う」
「他にも兄弟が?」
「三男の理央 は最近結婚して、泊まりには来ないけど会うことはあるよ」
三人兄弟で怜央が一番上のようだ。兄をしている彼はどんな感じだろうか。いつか会えたら聞いてみたいな。
「今度帰国するから茉央には会えるんじゃないかな」
「どんな人ですか」
「僕とは正反対の性格だよ。でも二人ともΩを大切にする気持ちは変わらない」
「みんなαですか」
「理央はΩだよ。性格は穏やかで静か。郁美とも話が合うかもね。今度会う予定が出来たら紹介するよ」
兄弟の中で唯一Ωの理央さんとは特に話してみたい。結婚に至ったきっかけとか相手のこととか。
僕と怜央はまだ交際したばかりだけど、行く行くはそういうことになるのかもしれない。
「ぜひ会ってみたいです」
「二人に郁美のこと伝えたら、会いたいって言ってたよ」
「え、僕のこと話したんですか」
「うん。美しく素敵で聡明、親切で優しい。かけがえのない人だってね」
怜央の言ったことはどれも過大評価しすぎている。でも兄弟に話していてくれて嬉しかった。
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