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意外な一面 1
湯船に浸かりながらぼんやり怜央に視線をやれば、眉間に皺を寄せて切なそうな顔をしていた。そしてポツリと話し始めた。
「郁美を抱いてから歯止めが効かないよ。さっきも意識を無くした君に何度も今みたいなキスをしてしまった。ごめんね」
「こんな風に求めてくれるの嬉しいです」
怜央はいけないことをした訳でもないのに、反省したような掠れた声を出した。
体を捻る辛い体勢だったけど、怜央の首に手を回して何度も唇にキスを落とす。
「僕はこれまで欲望を露わにすることはなかったし、何度も求めるなんてこと一度もなかったんだ。それなのに郁美のエッチな姿を思い出して盛ってしまった」
信じられないという口ぶりで弁明している姿は、必死で可愛くて思わず声を出して笑ってしまった。
「笑ってごめんなさい。でも怜央がちゃんと男だってことがわかって良かったです。本当は僕で勃つのか不安でした。そして一つになった時、今まで感じたことない幸福感で満たされました。だから求めてくれて嬉しい」
「郁美。甘やかしちゃダメだよ。今はまだαの本能を全面に出してないけど、いつかは激しく求めて頸を噛んでしまうかも」
頸を守る首輪越しにキスを落とされて、思わず手で守った。Ωにとってそこは急所よりも大切な場所。
一度奪われて手術で再建することができた。でも二度目は慎重に相手を選ばなければならない。
怜央になら頸を噛まれてもいい。助けてくれた恩があるからではない。優しさに触れて一つになって、彼とずっと一緒にいたいと思えたから。
「怜央になら噛まれてもいいですよ」
頸を抑えたままで振り返ってみると、怜央は目を見開き驚いた顔をしていた。
「本当に僕でいいの?」
「はい。でも……」
「ちゃんと分かってるよ。今すぐ噛んだりしないから」
やっぱり優しい怜央は「じゃあ今すぐ噛む」と言って強引に首輪を外して噛もうとしなかった。
今はまだ関係を急ぎたくない。でもちゃんと怜央の気持ちや僕の気持ちに答えを出したい。
「ありがとうございます。そんな優しい怜央も好きですよ」
「時々、大胆なことを言う郁美が可愛くて大好きだよ」
万羽のこともあって人に対して臆病になる所があるけど、怜央の前だと思い切ったことができてしまう。
生まれ変わったみたいに自分の知らない一面を発見している。これからも少しずつ怜央の側で成長していきたい。
そんなことを考えていると優しく抱きしめられたまま湯船から出された。脱衣所で介抱されるようにタオルで滴を拭かれて、服を着させられた。
ここであることを漸く思い出した。ヒート中は思うように思考が回らない。今もぼーっとしているけど、随分マシになった。
「怜央。デリバリー冷めちゃってますよね」
「そうだね。でもレンジで温めれば食べられるよ。お腹すいた?」
「実は少し……」
出すものを出しスッキリして空腹を感じ始めた。
クスクスと笑う怜央に手を引かれてリビングへと向かった。
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