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意外な一面 3
片付けを終えた怜央がマグカップを持ってソファにやってきた。差し出されたマグカップを手に取って覗くと、ココアのいい匂いが鼻腔をくすぐる。
「美味しそう」
「ココアで良かった?」
「はい。ココア好きですよ」
怜央と一緒に座ってココアを飲む。とても穏やかな時間が流れている。
万羽との生活は緊張感があって心休まることがなかった。常に顔色を窺って、キレさせないようにするので精一杯。ストレス過多な状態だった。
「郁美。これから同棲するけど不安はない?」
「あの……家事や掃除の分担はどうすればいいですか」
「当番制にしていても僕が多分出来ないんだよね。そういえば郁美は料理得意?」
「得意か分かりませんけど、基本的に自炊はできます。怜央はどうですか?」
キッチンは綺麗で生活感がなかった。普段から忙しい怜央が料理を作る時間まであるとは思えない。
「実は料理が大の苦手で、お米を炊いても水加減間違えてベチャベチャになるんだ。弟が泊まりにきた時に張り切ってオムライスを作ろうとしたら、真っ黒の岩みたいに硬い物体が出来てね。それから弟に、料理は二度とするなって激怒されたよ。だから料理は諦めた」
怜央の意外な一面だった。料理が得意だと勝手に思っていた。仕事で繊細な作業もこなしている彼が料理が下手だなんて、少し可愛い。
「今度、僕にも食べさせてください」
「ダメだよ。あんなの食べたらお腹壊す。デリバリーの方が美味しいよ」
「じゃあ僕と料理するのはどうですか?一緒なら成功すると思いますよ」
苦手な料理を克服して欲しいとは思わないけど、一緒に作って食べるのも美味しそうだと思った。変なことにならないように僕が見ていれば、まず失敗はしないだろう。
「じゃあオムライスのリベンジに付き合ってくれる?弟を驚かせたいから」
「はい。何度だって付き合いますよ。でも卵料理って難易度高いから、まずはカレーとか手軽に作れるものにしたらどうですか」
「そうだね。じゃあまずはカレーにハヤシライスかな」
嬉しそうに微笑む怜央に釣られて自然と口元が緩んだ。2人でキッチンに立ち料理する姿を想像するだけで、ワクワクしてきた。
こんな風に何かを心待ちにして生きたことはなくて、新鮮な気持ちばかりを味わっている。
「でもあんまり無理しないでくださいね。僕は基本的に定時で上がれますから、帰りに買い物して料理もできます」
「郁美にばかり任せきりなのは嫌だな。家政婦じゃないんだしさ」
好きな人と一緒に生活するだけで僕には幸せなこと。家事を任せきりにされたとしても、家政婦扱いされてるなんて思わない。怜央の役に立ててむしろ嬉しい。
「頼りにされるのは嬉しいです」
「無理しないでね。元々外食かデリバリーばっかりの生活だから、手料理じゃなくてもいいんだからね」
頬や耳にキスが降ってきた。ありがとうと言われている気がして、怜央の青い瞳を見つめて微笑んだ。
突発性ヒートのせいで遅めの昼食を食べ終えて、夕食は軽めのものにしてこの日は若干の気だるさを抱えながら眠りについた。
これから始まる同棲生活に思いを馳せて――
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