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知らない世界の揺さぶり 3
怜央に呼び止められてような気がしたけど、現れた2人のそばに居たくなくて逃げ出した。
会場の端にたどり着き、壁に手を当てて呼吸を整えた。
ここはαばかり居て酔ってしまいそうで、なんとか荒い息を整えて壁を背にして立った。
会場をぐるりと一周見渡した後、怜央の方に視線を向けた。
親しげに話してはいるが、女性の態度が気になった。胸の谷間を見せつけるようにして、怜央を誘惑している。
怜央は目もくれず男性と話しているが、その様子を遮るように知らない男が僕の目の前に現れた。
「あれ、君1人?同伴者は?」
「話をしています」
「あーもしかして彼かな。あの加賀崎先生が君を連れてくるとはね」
まるで怜央を知っているかのような言い方をした男性が、近づいてきて肩に触れてきた。肩を撫でた手が首元へ滑ってくる。
「顔が良くて華奢な体。女性よりも美しい艶肌の君が、加賀崎先生だけのものだなんて勿体ない。彼だってΩは君1人じゃない」
「どうしてそう言い切れるんですか」
「彼は医師としても研究者としても優秀で、沢山の人から誘惑や求愛を受けている。それなのに好みの人が君だけだと思うかい?」
「怜央は僕だけだと言ってくれました」
男の言葉に耳を貸す必要はないのに、嫌でも言葉が耳に入ってくる。
これ以上鵜呑みにしてはいけないと思うのに、逸らすことは出来なかった。
「優秀なαの常套句さ。みんなが特別で、君だけだと言い、安心させる。全ては優秀なαを残すためだ。だから君だって別に彼だけじゃなくていい。俺は2番目でいいから、君のその悲しみを癒させてくれないかな」
手で顎を掬われて引き寄せられると男の顔が直ぐ近くまで迫っていた。
「いい匂いだ。俺にも感じるということはまだ番じゃないんだろう。加賀崎先生には本命が居るから、君はずっと番になってもらえないんだよ。可哀想に」
「そ、そんなことない……」
「じゃあ彼と出会った時のことを思い出してみたらどうだ。全て偶然だったのかな。傷心している君を救い、まんまと心を奪っただろう」
男の言葉に出会った時のことを思い出した。偶然ではなく全て知っていて、意図があって近づいてきていたのだとしたら……
「思い当たる節があるだろう。不釣り合いな相手と感じたことは?」
「それは……感じないわけないです」
「彼が他にも甘い言葉を囁いていたらどうする。見て見ぬふりをするかなぁ」
揺さぶりかけてくる男はついに僕を抱きしめた。体の輪郭をなぞるように手が這い回る。
気持ち悪い手つきに嫌な汗が滲み出た。泣きたくなるくらい不快だ。
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