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知らない世界の揺さぶり 4
「そこの君。何をしているのかな」
低い声で唸るように言った声に視線を向けると、そこには怜央が立っていた。
彼の姿は今まで見たこともないような、恐ろしいもので凄みがあった。
「こんばんは。加賀崎先生。こんなのところで会うなんて奇遇ですね。そんなことより彼を俺にくれませんか」
「その手を離しなさい。彼に触れていいのは君じゃない」
「触れていいか決めるのは貴方じゃないでしょう。番でもないのに所有物扱いですか。これだから優秀なαは困る。全て自分の思うままになると思い込んでいるでしょう」
一歩踏み出した怜央が無理矢理男の手首を掴んで引き剥がすと、僕の手をとって腕の中に引き寄せた。
優しく抱きしめてくれて、安堵したけど体の震えがなかなか止まらない。安心できるのは怜央のそばだけだと、改めて気づいた。
「日々一緒に過ごしているけれど、思うままになったことはありません。郁美に翻弄されてばかりだ」
「だったら相応しい相手がいるでしょう。貴方の意のままに動く便利なΩがね。どこでひん剥いても喜んで腰を振るような下衆……」
「生憎だけど郁美に翻弄されるのが嫌ではないんだ。どんな小さな動きでさえ、目が離せない。こんなに惚れている人がいるのに、他を選べるわけがない」
「そんなの奪ってみないとわからないだろう」
強引な男に腕を強く引っ張られて、怜央の腕から引き剥がされそうになった。
逃れたくなくて必死に手を伸ばして、怜央の腕にしがみつく。彼もまた強く抱きしめ直そうとしてくれている。
「やめて!嫌だ!」
「嫌?嘘つけよ。ビッチが無垢なフリをするな!お前らΩはαに抱かれるために生きているんだよ。ほら来い!今すぐ番いにしてやるよ。加賀崎先生はお前みたいのは願い下げだから、番にしないんだろう。だから俺が奪ってやる。一生セックス漬けにしてやるさ。たくさん子を産ませてやるよ」
一気に捲し立てるように言った男はグイグイ腕を引っ張って、遂には怜央から離されてしまった。
そのまま引っ張られて会場の人ごみを避けて、出入り口近くまで連れて行かれた。
扉に手を伸ばそうとした男の行手を阻むように立っていたのは、怜央と三木さん、黒い服をきた男たちだった。
「そこまでだ。彼は私の婚約者です。誰にも奪わせない。これ以上くだらない事をするなら容赦しません」
「ボンボンのあんたに何ができる。取り巻きを連れていないと何もできない小心者だろうが!変人のあんたに特別な相手が出来たって聞いて驚いたけど、これだけ上者なら惚れる気持ちもわかるぜ。だから俺に寄越せ!!」
掴みかる男を容易く投げ飛ばした怜央は、1人取り残された僕を強く抱きしめた。彼の首元に擦り寄って匂いを嗅ぐと優しくいつものいい香りがした。
「怜央……」
「彼に何を聞いたかは知らないけど全て偽りだよ。郁美を揺さぶって自分のものにしようと企んでいたんだ。パーティーにはこういう不届き者が時々現れる」
「……ぐす、ごめんなさい。僕、あの人の言葉を信じようと……ごめんなさい。嫌いにならないで!」
「郁美にベタ惚れなのに嫌いになるわけないでしょう。不安にさせて、怖い思いをさせてごめんね」
匂いを鼻いっぱいに吸い込んだ。落ち着く匂いに漸く体の力が抜けていく。
「もう帰ろうか。ここには居たくないよね」
「いいえ。大丈夫。僕、負けたくない!あの人に」
「え?あの人って?」
「さっき話してた女性が怜央を誘惑してました。彼女の方が良いですか?僕は胸もないし、筋肉もないし…見窄らしい体だから……僕じゃ満足できないですよね」
自分で言ってることに虚しくなって涙が溢れた。さっきの男に揺さぶりをかけらせいもあって、どうやらかなりナーバスになっているみたい。涙腺が簡単に緩む。
「郁美。待って。僕がいつ君じゃ満足出来ないって言ったの?」
「僕じゃ勃たないでしょう。子供みたいなこんな体が大嫌いです」
「僕との初夜を忘れた?ちゃんと郁美に反応してたよ。君の体はとてもセクシーだった。そんなピタッとしたタキシードで、他のαに目をつけられる位、扇情的だと自分ではわからないかな」
「あの夜は僕がヒートだったから……怜央は釣られただけで、貴方には他に相手がいるでしょう」
本当は君だけじゃないと言われる気がして怖かったのに、勝手に自ら言葉にしていた。
怜央の体が離れていくと腕を掴まれて会場から連れ出された。何の返答もない彼に黙ってついて行く。
「怜央、どこにいくの」
「パーティーなんてどうでもいいよ」
僕が歩みを止めたのが、気に入らなかったのか抱き上げられてしまった。横抱きにされて何処かへ連れて行かれる。
途中、色んな人の視線が痛くて怜央の首にしがみついた。
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