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*スイートな夜 2

「郁美。ごめんね。酷いことしたね」  少ししていつもの優しい声が降ってくる。彼の顔を見上げると冷たい視線はなく、優しいものに変わっていた。 「あまりにも僕を信じてくれないから流石に傷ついたよ。でもこんなの間違ってるね。それに他の男に触られたのが嫌で……嫉妬してしまったんだ。ごめんなさい」 「ちゃんと信じなくてごめんなさい。自分に自信がなくて、どうして好きになってくれたのか不安で……」 「BARで一目見た瞬間に好きになったよ。一目惚れと直感。勿論初めは仲良くなれればそれでよかった。でも役所で再会した時に、これは運命だと思った。郁美の全てが好きなんだ」  優しく抱きしめられて囁かれる言葉に嘘は感じない。初めから怜央をちゃんと信じていれば、他者に言われたことで揺らぐことはなかっただろう。  それでも知らない男の言葉を鵜呑みにしてしまったのは、自分に弱さがあったからだ。 「立場とか身分なんて、どうでもいいと思うくらい郁美に惚れてる。もう僕は君なしじゃ生きていけないんだ」 「僕も怜央が居ないと生きていけません」 「これから先、何があってもどんな事を言われても、僕の言葉以外は信じないでね。悪意を持つもの達は沢山いるから」 「はい。怜央を傷つけてごめんなさい」  互いに絆を深め合い自然と唇が重なった。薄ら目を開けて怜央の顔を盗み見る。長いまつ毛が時々揺れていた。薄く目を開いた彼と視線が交わり、キスに酔いしれる。 「郁美。お風呂一緒に入ろうか」 「は、はい…恥ずかしいけど、怜央となら入りたい」  微笑んで頷き返す。手を首に回してしがみ付き、そのまま抱き上げられた。横抱きで脱衣所に連れ込まれる。 「僕の服を脱がせてくれる?」 「はい」  怜央の蝶ネクタイに手をかけて、シャツのボタンを全て外した。ズボンを下ろして最後に下着へ手を伸ばすと、僕のお尻に手が触れて指先で割れ目をなぞるよう触れられた。 「ん、ん…ダメ、怜央。まだ脱がせてない」 「気にせず脱がせてくれていいんだよ。それともエッチな気分になっちゃった?」 「なって…あぁ、ん…ダメだって」  双丘の奥に控えている秘部に指がそっと触れてきた。小刻みに動く指先でくすぐられて、腰が揺れてしまう。こんな簡単な刺激だけで感じている。  震える手でゆっくりと下着を下ろせば、ブルンっと大きなペニスが現れる。それはもうお腹に引っ付きそうなほど反り返って天を向いていた。 「郁美がエッチな声出すから、こんなになっちゃったよ」  恥ずかしそうに頬を染める怜央が可愛い。そんな彼と共に浴室に入り、一通り洗い終えてから湯船に浸かった。  硬い存在を腰に感じながら、怜央の足の間に背を向ける体勢で甘えるように擦り寄った。 「さっきの怜央も貴方の一面ですか?」 「あんな冷たく酷い言葉を本気で言うわけないよ。でもそう思ったなら、僕の演技も捨てたもんじゃないね」 「本当に怖かった。あんな怜央は二度とごめんです」 「僕が傷ついたって知って欲しかったんだけど、怖がらせてしまったね。でもあんな暴力的なセックスは僕の趣味じゃない。だから二度とするつもりはないよ」  ごめんねと何度も耳元で囁かれて抱きしめられる。背中で怜央の鼓動が早くなっているのを感じた。  怜央が豹変した時は焦ったし、怖かった。でも彼の根本は優しく、みだりに人を傷つけたりはしない。  今回は僕が悪かったから、責める気にはならなかった。 「許してくれる?」 「はい。怒ってませんし、もうとっくに許してますよ」 「君に酷いことをした彼と同じようなことをしてしまったね。本当にごめんなさい」  万羽と同じだと言うけど、彼には優しさの欠片も感じなかった。僕を奴隷のように扱い、拒否すれば暴行を繰り返された。  悪質な行為だけど支配されて逃げることも出来なかった。  怜央とは似ても似つかない。彼は優しくていつも温かく包み込んでくれる。でもちゃんとαとしての本能も持っていて、それを制御する術を訓練して身につけてきたらしい。  暴力的な一面を見たのは、先程男を投げ倒したときだけで、僕は一切受けていない。  時々、僕の言動に反応して本能をむき出しにすることはあるけど、一般人に比べたら遥かに欲望を制御している。  愛してくれているのだと感じるし、僕も彼を愛していることは事実だ。  

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