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第4話*

  だが、現実には手を出すことが出来なかった。涼に嫌われるのが怖かったのだ。きっと涼の中では俺は可愛い弟なのだろう。だからこそこうして身近に要る事を許されているのではないか? もしも、俺が淫らな妄想を持ち合わせていると知ったら涼は俺の事をどう思うだろうか……。家族として親愛の情は感じてくれてるとは思う。だけど俺の気持ちがそれ以上だとわかったら?身も心も綺麗な涼に拒まれるのがつらい。そう思っていた。  それなのに卒業間近になって事件は起こった。  涼が襲われたのだ。相手は高校時代に涼にストーカーをしていた奴だった。俺が喧嘩をふっかけて涼が学校とその親に対し訴えた奴だった。  そのころからずっと根に持っていたらしい。涼は一人暮らしができるマンションを契約したところだった。どうやって情報を手に入れたのか知らないがそこを狙ってきたのだ。涼は社会人になるのに向けて実家から独立しようとしていた。そいつは涼がマンションの下見に来て一人になるのを見計らって攫い、軟禁したのだった。その日は運悪く俺の授業が詰まった日で一緒に同行できなかったのが悔やしくてしかたがない。こんなことなら日にちをずらしてもらえばよかった。  俺が寮生たちを引き連れてマンション周辺に聞き込みを入れると怪しい男がうろついていた、背中に青年をおぶってタクシーに乗り込んだなどすぐに情報が手に入った。その後タクシー会社を片っ端からあたり、男を降ろした周辺に更に聞き込みをいれ、軟禁場所を探しだすことが出来た。奴を半殺しにして涼を救出したが、涼にはトラウマが残ってしまった。この数日間、やつは涼に淫らなことを強制し続けたらしい。 「兄さん……涼。大丈夫。大丈夫だよ」 「い……いやだ。来るな。近寄るなあっ」  涼は見つかった時手足を拘束されパニック状態だった。俺以外の奴が手を出したことが許せない。……でもこれでやっと俺の手に堕ちてくれる。俺は涼をすぐさまマンションに連れ帰った。契約はすでに済んでいたようで次の日から俺は寮に戻らず涼と同居を始める。両親や大学には兄の看病をするためということにした。 「やめろっ……うわああ」  夢うつつで夜中に暴れる涼を抱きしめ、優しく語りかけた。どれほど俺が涼を愛しているか。どれほど大事に想っているかを。 「お……俺は汚れてるんだ。そんな俺に触れるとお前が汚れる」 「何言ってるんだ。兄さんに汚いところなんてないよ。俺が全部上書きしてあげる」  ――――俺はきっとこの瞬間を待ち望んでいたんだ。

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