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第7話 涼Side

 俺は感情というものをどこかに置いてきたような子供だった。きっと産まれてすぐに母がいなくなったせいだろう。父親はすぐに新しい女性を見つけたようだった。  いや、今思えば最初からその女性に執着していたように思う。俺が小学校に上がる前にはもう家の中にその女性がいた。女性には息子が一人いた。それが博信だった。  博信はくるくる表情が変わる子だった。俺はそれが面白くって始終一緒に居るようになった。そしていつの間にか俺たちは兄弟となっていた。どうやら父親が籍を入れたらしい。  やがて博信が俺に向ける視線が他とは違う事に気づいた。俺に対しての絶対的な信頼感。崇拝に近いまなざし。……ゾクゾクした。博信が俺だけを見つめてる事に対しての恍惚感に。  成長するごとに俺は母親に似てきたようだ。俺を見る父親の目が嫌悪にまみれていた。母は資産家だった祖父が選んだ婚姻相手だったらしい。父の望まない結婚だったのだろう。  父は自分が欲しいものを手に入れるためには何でもする男だ。俺から見れば博信の母親は父に真綿で包む様に囲われた女だった。   高校に入りハエがたかるように俺の周りにストーカーが集まりだした。それとなく博信の前で困っているそぶりを見せた。どう反応するかが知りたかったからだ。すると意外にも俺を守る行動をとりだした。下校時には校門で俺を待つほどだ。  同級生からはお前の弟は姫を守る騎士のようだと言われる。それを博信に言うと、その日から体力作りに励みだした。  日々逞しく精悍な顔立ちになっていく博信に。その鍛えられた身体を見るたびに、欲情した。こんな淫らな思いを抱いた俺をお前はどう捉えるだろう? もしも面と向かって拒絶されたら? ……最悪だ。もう二度と俺を振り向いてくれないかもしれない。  そんな時に義母から博信がこれ以上不良になったら進学ができないと聞かされた。  俺の為に喧嘩をし、停学をくらったらしい。 「博信……ごめん。お前ばかり悪者にされて」

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