2 / 6
今日だけ『自称』じゃないロードスター
ずんだ茶寮へ到着すると、飲む人〜とてつやに聞かれ、京介とまっさんは遠慮して、ずんだシェイクは3つお買い上げ。
通路を挟んで店と反対側の壁に寄って、味見タイムとあいなった。
そこから先へゆくと牛タンロードとか言って予約した店があるんだな、とまっさんはちょっと偵察に。
「一口言っとく?味見に」
と、てつやは手に持ったカップを京介の前にだしたが、その腕を間に居た文治が引っ張りストローを一回吸って、そのまま手を離さずに自分のを吸い上げた。
「ん?」
と京介は見下ろし、てつやも
「え?」
と、やっぱり見下ろす
「文ちゃ〜ん。文ちゃんは自分のあるでしょーよ〜手離してくんない〜?」
文治の頭を撫でて笑うが、それを見ていた銀次と目を合わせた京介は2人で肩をすくめあった。
やっと離された手が京介の前へカップを持ってきて、京介は漸く味見ができた。
あまり甘過ぎずな感じが合う味だったのか
「美味いな、もう一回くれ」
とてつやの肩に手を回して肩を寄せる。間に文治を置いて試しに軽く文治を刺激してみた。
大人気ないとは思ったが、ちょっと確かめたかったのもあるかもしれない。
「しょうがねえな」
とカップを差し出してきたそれをそのまま口をつけた。
その様子を文治は下からじっと眺めていて、あまりに寂しそうな目に京介はちょっと罪悪感を感じ、文治はまた少しモヤモヤが胸に起こったのを感じた。
「きゃあっ」
その飲ませ行為の最中に、傍から女性のそんな声が上がる。
「ん?」
とふと脇を見ると、歳のころは20代前半の女の子2人がこっちを見て手を取り合っていた。
京介はてつやの肩から手を離す。
てつやと目があった女性は、お互い先にいって先にいってと押し合いをしていたが、勇気が出たのか2人しててつやに近づき
「て…てつやさんですよね…えと、ロードローラーの…」
ロードのファンか…と悟り、京介は文治を引っ張り一歩後ろへと下がった。
その際文治は『なんでてっちゃんと離すの?』と思って京介を見上げたが、京介が少し誇らしそうにてつやを見ているのがあまりに印象的で、逆に見とれてしまった。
「え、あ…はい」
「きゃあ!本物!」
女の子たちは手を取り合って跳ね上がる。
でも『てっちゃんを連れてっちゃう悪い影』の印象もまた強くて、文治は肩に乗せられていた京介の手から逃れるように一歩だけ前に出た。
京介は空いてしまった手を自業自得を感じながら苦笑いしてコートのポケットにしまい、まっさんと銀次がそれに気づいて顔を見合わせているのを目にしていた。
てつや自身は優勝回数も手伝ってメディアに顔が出ることも多く、稀ではあるがこうやって声をかけられることもあるのだ。
女の子の目的は目立つてつやなので、サポートは下がるのみ。
しかし今回のお嬢さん方は少し違っていて、てつやと話した後もまっさんと銀次にも声をかけ、あまつさえ少し下がった京介や文治にも
「サポートの方ですよね」
と声をかけてきた。
「あ、はい…」
と急に振られて気のない声を出してしまうが、
「雑誌でサポートの方の画像も載っていたのがあって、それでお顔覚えてたんです。背、高いんですね。こちらは親近感」
京介を見上げた後文治にも目を配ってくれた。
「てつやさんの身長はプロフィールとかで公開されてたので、背の高い人たちがいるからまさかねと思って見てたんですけど、サポートの方がこんなに大きいとは思ってないし、てつやさん髪型と髪色変えたので違うかなってなってたんですよぉ。勇気を出して声かけてよかったです。や〜んチームの方全員と会えるなんて奇跡です!」
京介が話すまもなくたくさん喋ってくれる女の子は、中々な興奮ぶりで少し照れる。
「こうして生でお会いすると、皆さんかっこいい!やだ、何言ってんのあたし」
結構な黄色い声で、周りの通行人の人も結構注目してきた。
お嬢さん方はそれに気づき、
「あ、大きな声出しちゃった、すみません」
と謝ってくれて、中々弁えた感じの子達だ。
「私たち今年の大会、河口湖まで行ったんですよ」
流石にびっくりして
「え?仙台からってことですか?」
とてつやが聞くと、
「はい、もちろんです。前の日にゴールが決定した瞬間に近くに宿とって前のりでした」
両手を胸の前で握って熱弁を振るう
「まじで〜ありがとう」
「ゴールすごかったですけど、あれからも大丈夫だったんですか?怪我とか」
本当に見てた感じだ。結構珍しくガチのロードファンらしい。
「うん、平気だったです。バットマンにガッチリホールドされてたらしくて擦り傷もなかった」
と笑うてつやに
「バットマンさんとのゴール、危なかったですけどちょっと萌えました」
なんかハートついてるぞ 的な言葉にてつや以下チームの全員(文治除く)は複雑な顔
「ま、まああんだけぎゅってされちゃうとね」
あははーと笑っててつやは受け流した。
「あ、ご旅行ですか?仙台に?」
「いや、鳴子にね、知り合いがいるものだから」
「あ〜鳴子かぁ。本当にいい温泉ですよ〜楽しんでください。あまりお引き止めするのも申し訳ないので、最後に一緒に写真撮ってもらっていいですか?みなさんとご一緒に」
写真と言われ、撮ってあげようと一歩を踏み出そうとしたまっさんは、一緒にと言われ少し驚いた。
「え、俺らも入っていいんですか?」
「もちろんですよ〜。私たちはこのチームのファンなんですから」
なんだか嬉しかった。
てつやの人気だけでも嬉しいが、チームって言ってもらえるともっとうれしい。
ずんだシェイクのお店の人が出てきてくれて、全員の写真を撮ってくれた。
「これ、部屋に飾って大事にします。ありがとうございました」
「旅行楽しんでください」
嬉しそうに頭を下げて去ろうとする女性たちを てつやがねえねえと引き止める。
「はい?」
「あのさ、今ずんだシェイク飲んで、これから牛タン、萩の月に行くんだけど、地元の人のおすすめってないですかね」
とナイスな質問をした。
2人は、ん〜〜と考えて、あ!と一緒に思いつき
「ひょうたん揚げ」
と同時に言う。
「ひょうたん揚げ?」
と聞き返すと
「阿部蒲鉾店さんというところで売ってるんですけど、こう丸いのが二つ櫛に刺さってて、アメリカンドッグみたいなんですけど中が蒲鉾なんですよ。美味しいんです」
力説してくれるがいまいち伝わりにくい
「これですか?」
まっさんがスマホを2人に向けると
「そうです!これこれ、おいしいので是非たべてください。駅にも阿部かまさんあるので、多分ですが売っているかと思います」
中々いい情報をもらった。
「どうもありがとう。やっぱり地元の人に聞くべきだね。引き止めてごめんね」
「いえいえ〜旅行楽しんでくださいね〜では〜」
と手を振って今度こそ去っていく。
てつやも手を振ってバイバイ〜と返しているのを見て、文治はモヤモヤが大きくなった。
「いい人達だったね」
気持ちを払拭するように文治はてつやへ寄って行き、てつやを見上げて言ってくる。
「ああいう人たちに俺たち支えられてるんだよね。だからレースも手を抜いちゃダメなんだよ。文ちゃんもいい経験できてよかったね」
「うん」
てつやに肩をぎゅってされて、安心する。
旅行に来てるのに、なんかこんなのはやだなとは文治も気はついている。さっき見た夢のせいで、なんだかモヤモヤした気持ちが邪魔をして心から楽しめない。
いやだなあこんなのは…と内心はそんなことにもモヤモヤし始めてしまって、どうしていいのかわからなくなってきた。
でも、てっちゃんと京介さんが一緒にいるの…だめ、の気持ちが大きいのも事実で…。
「ひょうたん揚げか…美味そうだよな」
銀次もスマホで確認しながら言うが
「せっかくだから早速いって…あ…」
スマホで確認していたまっさんが不穏な声をあげ、そして画面を見せてきた
『仙台駅 ひょうたん揚げ店営業終了のお知らせ』
ネットスラング的な書き方だなとは誰もが思ったがそうじゃない。
「ええ〜〜なんだよそれ〜〜!もう口がひょうたん揚げになっちゃったよ!」
食べたことのない人の言うセリフではない。
「売ってんのは、アーケードにある本店だそうだ」
スマホを仕舞ってーどうする?ーの顔のまっさん。まっさんも興味はあるらしい。
「結構歩くけどな」
12時30分の予約まで約1時間。
「俺らの足なら1時間もかかんねえだろ」
場所もわからないまま見切りでいう銀次。
「お前どこだか分かってねえじゃん」
と京介に突っ込まれるが、文治の
「ひょうたん揚げ食べてみたい〜」
の後押しで、全員が賛成となり善は急げとアーケードへと向かった。
アーケードの入り口を入り、まっさんの説明だとここから先のまっすぐなアーケードを⅔行った辺りらしい。
「まあ1時間はかからなそうだな」
そう言って割と早足気味ではあるが、辺りを見ながらあるいてゆく。
この集団は187cmを筆頭に185、180、178と割と高身長なので、何かのスポーツ選手かとまちがえられるし、バカみたいなイケメンではないところが返って人目を引く。イケメン寄り…ではあるのだが人の好みに分かれるところ。
人混みで頭一個分出るのが2人いるので仕方がないが、ある意味慣れてしまっている。
そんな感じでアーケードをそれなりに楽しみながら闊歩し、
「アーケードの中のイオンって珍しくねえ?」
と言う銀次の言葉の後に、
「あ、あった」
と言うてつやの声がかぶさる程度の近くに、やっと阿部かま本店が見えてきた。
アーケード側の入り口の脇に、ひょうたん揚げを売っている場所があり、幟 も立っているのでわかりやすい。
そこには数組がすでに並んでいて
「人気なんだなやっぱ。この人数で並ぶこともねえからじゃん負けな」
まっさんがそう言ってじゃんけん開始。
このゲームは言い出した人が負ける確率が異常に高いゲームで、案の定買い出しはまっさんと文治となった。
残った3人は脇によって待機。上から背がでかい順に残ってしまい、そこで食べている人や通行人からもチラチラ見られがち
「これで俺らイケメンだったら、逆ナンとかされんのかな」
と銀次がそんなことを言ってくる。
「てつやが逆ナンされないんだから、それはねえだろうな」
なんだ?惚気か?と銀次は警戒し、
「っていうか、お前のその髪色が目を引いてるんだと思うぞ」
と、内容をすげかえる。アッシュグレーのマッシュウルフか…確かになあと京介がてつやの髪の一部をちょいちょいと人差し指で引っ掛けると、どっかから『ヒィッ』との声
「ヒィ?」
3人はキョロキョロするが、出どころがわからなかった。
「お前ら少しは自重しろよ」
「え?何を?」
だめだ、わかってねえ…自覚がねえんだ…目立つんだよ…フツメンのくせに目立ちやがる雰囲気イケメンどもめ。
銀次は腕を組んで、この2人とは関係ありませんのポーズで横を向いてしまった。
その時、買い物係の2人が帰ってくる。
「おまたせ〜」
文ちゃんがスチロールのお皿を持ってやってきて、グイグイとてつやと京介の間に入り込む。その様子を銀次と京介2人はまた顔を見合わせて首を傾げるが、てつやは
「もー、ぶんちゃん割り込み禁止な〜」
と笑っている。いい加減気づけや。と思わないでもない2人だ。
そこへまっさんも同じ皿と紙の袋に入った一本を手にしてやってきてそれはうやむやになった。
「こっちの皿と、この一本が辛いケチャップだって。残りは普通のケチャップだと」
そう言った瞬間に、お留守番3人は辛いのを取り上げる。
「だろうと思ったわ」
とつぶやいて、まっさんは辛くない方を手に取った。
「うっわこれ美味いな、なんこれ」
アメリカンドッグより生地が甘い気がするが、中がかまぼこなのでそれがちょうどいい気もするし、ケチャップが非常にいい感じにマッチしている。少し温かいのもまたいい。
「あー美味いなこれ。何本でもいけそう」
周囲でもその場で食べている人が多くそれに倣ってみたが、周りの人々も美味しそうに食べている。
「これは、さっきの子たちに感謝だな。知らずに帰っていいもんじゃねえわ」
まっさんが絶賛するのも珍しく、てつやは
「まあ、俺が聞いたんだけどね」
と得意顔。
「それはマジでファインプレイだったわ。これ地元民しか食わない気がするしな」
「おいしいぃ〜」
ケチャップがほっぺたにくっついているのは気づいていそうだが、あとでいーやーと思ってそうな文治もうまうまと食べている。
てつやは一本をぺろりと平げ、もう一本いけそうなんだよな…と買う体制になるが
「牛タン食わなきゃなんだからやめとけ」
と京介に止められ、それもそうだった、と一先ず足を止めた。
「こんなもの教えてもらうと、もう少し気になるところ探したくなるよな。帰りも寄りてえわ。そん時もこれ食うけど」
「あ、いんじゃね?帰りも寄るべ」
まっさんが真っ先に賛成した。
日持ちしないお土産があるからが理由らしい。
「ほんとー?楽しみ!じゃあ今日ははそんなにお買い物しないでおこう〜」
文ちゃんも嬉しそうに笑っていた。
「なあんか文治の様子がおかしいんだよなぁ…」
駅へ戻りながら京介がぼやく。
「確かにな。なんかてつやのそばを離れないっていうか…お前と引き離そうとしてるっていうか…」
てつやと文治が前を歩いているのを後ろから見ながらの銀次との会話。
「お前何かしたんか?てかさっき、ずんだシェイクのとこでおまえ、文治いじっただろ」
「何かって、何もするわけねーだろ。大体何したらあんな態度に出られるんだかわかんねえわ。まあさっきは確かにいじったけど、なんかわかるかなあって思っただけでさ。悲しい顔されて自分が凹んだだけだったわ」
全く見当もつかない大人組だが、てつやだけ気づいてないことはわかっている。
まっさんもなんだかダンマリを決め込んでて、モヤモヤしてるのは京介だけなのも癪に触る。
「まあもうちょっと…様子見るべ」
コートのポケットに手を突っ込んで、銀次が肩をすくめる。
「やっぱ仙台はちょっと寒いな」
牛タンも堪能して、お土産をちょっと見ようとなり売り場へ移動する。
「銀次、玲香ちゃん家への土産持ってきたんか?」
まっさんが、萩の月売り場で化粧箱に入っていない個人用の萩の月10個入りを何個買うかでてつやと文治と話し合っていた銀次の脇に立った。
「え?土産?…あっ!」
後で京介も、やっちゃったな…と口元を歪めている。
「お前ね、もしかしたらお前の舅姑になるかもしれない人たちだぞ…土産を忘れた?話になんねえわ」
長男まっさんの説教が始まった。
その脇で、銀次が抜けてしまったので何個買うか迷子になっていたてつやと文治は、いっぱい食べたいよね ということで10個入り2袋を買おうとしているところを京介に見つかる。
「お前らそんなに食えんのか?」
まだ呆れた声だったが、
「って言うか、旅先なんでうるさく言いたくねえけど、さっきのSAといいちょっと食い過ぎお前ら。一袋にしとけ」
と、次第に少し怒ったような口ぶりに…
「ん…」
「はぁい」
あっちとこっちで長男と次男の説教合戦。双方言っていることはごもっともで…
銀次は萩の月20個入り2箱と、笹かまぼこを3箱買ってお土産とした。従業員さんも含めての計算だ。
代金は今回宿泊のお礼も兼ねているためチームのお金からも半分出し、てつやと文治は、箱なしを一袋だけ買って終わりにした。
チームのお金とは、ロードに出る時の資金や、忘年会や新年会その他の飲み会に使うお金等を、共同通帳に貯めている物だ。最低五千円と決めているだけで、個人の裁量でいくら入れてもいいというアバウトな貯金ではあるが、今回のような旅行でもその資金は発揮される。学生の文治はその限りではないが、家が金持ちなので文治も毎月幾らかはいれていた。
それからは、少し自分たちの酒やつまみや酒を買い(w)車中の飲み物スタバを経由して車へ戻った。
駐車場で準備をしていると、文治が
「ねえ、てっちゃんあれなんだと思う?」
と、遠くを指さしててつやの服を引っ張った。
「え?なに?」
てつやが指さされた方を見ると、真っ白な人形(ひとがた)が立っている。
「え…なにあれ怖っ」
その声に全員が
「なに?どうした?」
と目線を追うと、やっぱり
「うわ怖っ」
と声が上がり
「なんだろ…仏像?」
冷静に京介が目を細める。まっさんはすぐに検索かけて
「なんかな?観音様らしいぞ。日本で2番めに高い仏像なんだって」
「観音様…?こっからこんだけ見えるってことはさ そばに行ったらかなりデカそうだな。帰り行ってみる…?」
怖がりながらも、観音様と分ければ銀次も少し余裕が出てくる。
「まあ中にも入れるみたいだし、帰りに寄れたら行ってみるか。超地元な場所っぽいけどな」
「あまり気が進まない…」
なんだか文治は怖がってしまい、てつやにしがみついた。
「怖がりだな文ちゃん。観音様はいい人なんだから大丈夫だよ」
人扱いはどうかと…
それからは荷物を整理して車へ乗り込み、まっさんが運転を代わってくれて、
「後は約2時間弱の旅だな。さ、行くか」
と仙台を出発した。
車内は、萩の月で盛り上がる。
まっさんと京介に一個づつ渡した後、残り8個を3人で2個2個に分けた場合2個余るのだ。その争奪戦で熱く燃えている。
京介はそれだって十分食い過ぎなんだよな…とナビシートでこめかみを揉んでいた
ともだちにシェアしよう!