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惚気と嫉妬と暴走と(笑)
古川インターを降りる2キロほど手前になると、銀次のスマホが鳴った。
あ、玲香ちゃんだ。と電話に出るが、なぜか簡単な会話ですぐに切れる。
「玲香ちゃんがさ、インター降りたところで待ってるってさ。玲香ちゃん先導で鳴子まで行ってくれるらしいから、まず降りたら付いてきてって言ってた。白のレクサスだそうだ」
こっちの車種も教えといた、と伝言は承ったが
「レクサスか〜やっぱお嬢様なんだなぁ」
と京介が呟くのに、まっさんが
「あんたの車も大概だわ。価格帯そうは変わんねえだろ」
と、ツッこむ
「あたしはローン漬けざますよ…っと」
ずれていた身体を元に戻し、まだ生ぬるいコーヒーを一口口にした。
「しかし、ナビがあるのに案内してくれるって、銀次〜愛されてんな〜〜」
てつやと文治がニヤニヤと銀次をつついている。
「玲香ちゃんの好意だろ〜やめろよそう言う言い方ぁ〜」
とか言いながらもデレデレになって、銀次は後ろのシートにうずくまってしまった。
「そっか、案内してくれるならナビいらねえな」
京介はナビを切って、マップで現在地を確認する。
「あれ、あと150mとか言ってるわ。はや、もう着くんだな」
気づけば車はインターへ向かう緩やかなカーブに入っていた。
ETCをぬけると、なるほど左側に白のレクサスが止まっていて、運転席の人物が大きく手を振りハンドサインで先に行きますと送ってきた。確かに玲香だった。
レクサスは走り出し、まっさんはそれに続く。
一般道に出てから5分ほど走ったあたりで、レクサスはコンビニの駐車場へと入り、それにまっさんも続いた。
車を降りると、5人の元へ玲香がやってくる。
「遠いところお疲れ様でした」
5人の前で挨拶をする玲香は、白のタートルネックに薄紫のダウンパーカーを着て、膝丈ちょっと上のスカートにロングブーツという出立ち。
「いや、こちらこそ年末の混んでいる時期に部屋を押さえてもらって、ありがとうございます」
まっさんが挨拶を返してくれた。
「とんでもないです。帰って強制したみたいになってしまいましたけど大丈夫でした?」
「そんなことないですよ、全員楽しみにしてました。そう言えば、雪が酷いって聞いてたけど、それほどでもないっすね」
「それならよかったです。雪はそうなんですよ。昨日まで結構積もっていたんですが、除雪したあと気温が上がって、道路は溶け切ってくれました。安心しましたよ〜。でもホテル周辺は少し残ってるのでそこは気をつけてくださいね」
「確かに道路脇の雪すごいっすね」
除雪車で払った雪は道路脇に溜められる。まあそれですらあまり降らない地域の5人が驚くほどの量ではあった。
「京介さん。京介さんとこうしてお会いするのは初めてですね。園田玲香と申します」
まっさんの隣に立っていた京介にきづき、玲香は丁寧に挨拶をした。
「浅沼京介です。そうですね、初めまして。人形の時しか覚えてないです」
と笑いをとってみる
「だめですよ〜そんな痛いところついちゃ。でも次回の策は練ってますので楽しみにしてくださいね」
「そうします。今日はよろしくお願いします」
ーこちらこそですーと微笑んで、その近くの文治へ目を向ける。
「文治さん、いらっしゃいませ。お疲れでは?」
「横山文治です。仙台で美味しいお菓子買ったので元気です」
「それはよかったです。後もう少し車に乗ることになってしまうけどごめんなさいね」
「大丈夫です」
文治にも優しい玲香ちゃん。
駐車場を借りた手前、京介がタバコを買って出発。
一行は一路鳴子を目指すこととなる…?
銀次は勿論玲香ちゃんの車に同乗したので、JEEPの方は4人となった。
一応持ってきておいたインカムを銀次に渡し、必要な時に声かけてくれということにした。
こちら側は一つ回線開きっぱなしにしなきゃならなくなって、それは運転手のまっさんに任された。
「しかし、本当に利発そうな可愛い子だな、玲香ちゃん」
今日初めて正式にあった京介の感想。
「だろ?でもお前の好みじゃねえな」
てつやが後で残念〜と言って笑っている。
「京介の好みは、もっと胸のデカい女だからな」
それを聞いたまっさんは吹き出しかけて、かろうじて押さえた。
京介を見ると笑っていて、視線を感じたのか目が合った時に
「可愛いだろ」
と堂々と惚気てくる。
「可愛いかどうかは別としてさ、てつや〜お前案外余裕ねえんだな」
は?と後ろから帰ってく声は少し不機嫌。
「どこでそういう話になってんの?余裕?綽々だぜ?」
もうたまらんとまっさんは吹き出し、京介も声をあげて笑ってしまった。
てつやと文治は何だかよく分からずに顔を見合わせている。
「なんだよ、何笑ってんだよ」
「いや、なんでもない。そうだな、彼女は俺の好みじゃない」
京介が笑いながらそういうのに納得できずにーなんなんだよーと突っかかってくるが、前席の2人はおかしくてもう返答ができないでいた。
「まあともかくだ、彼女が京介の好みじゃないことは置いておいて、玲香ちゃんは最初から銀次に着いて回ってたぞ」
置いとくな!と後ろで騒いでるてつやもついでに置いておいて、
「どういうこと?」
と京介はまっさんを見た。
あの2人の馴れ初めといえば言えなくないことを知っているのは実はまっさんだけだった。
「言わなかったっけ。この間の大会で、銀次は流れで3位になったけど実力じゃないことを結構気にしててさ、実は銀次が入らなければ玲香ちゃんが3位になれてたんだ」
てつやとバットマンの衝撃的なゴールの陰で、何人ものローラーがゴールしていた。玲香は3位入賞だと喜んでいたところ、知らないところで掻っ攫われてショックを受けていたという。
だから表彰式の後も、腑におちず銀次の後ろをつけ回すという行動に出ていた。
自分でも追いかけ回しても何もならないと判りながら、人形ちゃん(玲香)は追い回していたのである。
銀次は銀次でただでさえ『のり』でゴールしてしまった罪悪感も手伝って、3位を逃して追いかけ回してくる人形ちゃん(玲香)に譲ることまで考えていたのだが、まっさんのアドバイス『抱きしめて謝っちまえ(語弊あり)』の一言で形がついたのだ。
しかしその時に、玲香の関心が3位より銀次に移ったのである。
意識してしまって、その場を去ったが忘れられず、人伝に住んでる場所まで探して会いに行った。
「っていう背景があんだよ。なんか感じてたんだろうな最初から。銀次一直線だったもんよ」
「へえ〜、しかし銀次に目をつけるってやっぱ玲香ちゃんただもんじゃねえよな」
てつやも銀次の男っぷりは買っている。自分は軟派だが銀次は硬派なのだ。
「確かにな」
それには全員頷く
「まあしかしだ…頑なに好みを貫いてる男と、遊び人だと思われてる2人とお子様か。銀次しかまともなやついねえな」
自嘲をまぜて言ったのもてつや。
「てっちゃん!お子様って俺のこと⁉︎」
「文ちゃんが可愛いってことだろ〜〜。文ちゃんだって、玲香さんが自分の彼女になるとは思わないでしょ?」
それはまあ…と文ちゃん静かになってしまう。ーやさしくていい人だと思うけどねーーと、自分には少々高嶺の花だということは自覚している。
「あとはまっさんだな〜」
京介が意味ありげに言うが、
「俺?俺は気長に待つわ。ほら、なんせ好みの女性しか受け入れない男だから」
こちらも自嘲を込めて笑うのみ。
ーああ〜歯がゆいなーと京介は思う。早いとこなんかのチャンスを作らないとな…
とまっさんの彼女作り工作は密かに始まっていた。
「銀次だけど」
まっさんのインカムに銀次から連絡が入り、
「おう、なに?」
の、まっさんの応答で全員がインカムをつけた。
『この先にな、でっかい道の駅があるんだって。そこへ寄ってみますかだって。結構おすすめらしいぞ』
道の駅といえば、野菜の直売所やちょっとした地元のものが売っているこぢんまりしたところなイメージが強い。
別段野菜が欲しいわけでもないし、地元のものも今は特に…と思うのでそこはスルーしましょうといいかけたとき
『ロイズがな、日本で唯一そこで店出してるんだって。興味があればって言ってるけど』
「ロイズ!」
声をあげたのは文治。
「行きます!」
ついでに学校の様に手をあげて行きます!と叫ぶ。
「行くそうです…」
まっさんが返答して
『文治がな、わかった』
笑った声で銀次が言って通信は切れた。
そこから数分走っていると左に大きな建物が見えてくる。
「なんだろうあの建物。結構でかいな」
てつやがぼんやりと言っていたその建物こそが件の道の駅だった。
それは想像を超えた大きさだった。
「でけえなここ」
てつやが言うように、今駐車場から歩いているが全容を目にするのに首を振らなければならないほどには大きい。
中がどうなっているかはわからないが、一緒に行動するのもなんだなと思い
「どうする?各々好きに回るか?」
とはまっさんの提案。
ロイズに興味がない勢ばかりなので、そこに付き合う気は毛頭ないらしく、自由に歩き回ってみたかった。
「じゃ俺、先にトイレ行ってるわ。誰かにあったらそこで合流する」
京介がそう言ってトイレに向かった。
その後を、あ、俺も行っとこ…とてつやが追おうとするとその腕を文治が捕まえてくる。
「え、どしたの?文ちゃんトイレ平気?」
「大丈夫!それよりてっちゃんは、まず俺とロイズ行くの」
この文治の行動も、まっさんと銀次は顔を見合わせて、玲香はニコニコと見守っていた。
「お、いいぜ。買わせ上手発揮してみるか?」
「それは自分で買うからいー」
引っ張っていかれるてつやを見送って、銀次は
「ずっとだよな、あれ。なんかわかったん?」
とまっさんに尋ね、まっさんは
「見当はつくんだけど…仙台からあれだよな」
と 半分不思議顔。
「可愛いヤキモチなんじゃないですか?」
傍で玲香が言うのに2人はー急に?ーと首を傾げる
「指輪…てつやさんこの前会った時にしてらっしゃらなかったですからね。最近なんでしょう?つけ始めたの」
またしても洞察力発揮されて、2人はーおお〜ーと感嘆した。
と同時にまっさんは『このまま結婚したとして、銀次ぜってー悪いことできねえな…』とちょっとだけ恐怖も感じた。
京介はトイレから出て少し中を歩き回っていたが、口が甘いのに辟易して売店にちょっとしょっぱいものを求めて入り込んでいた。
ロイズの方は、てつやと文治の他に銀次と玲香もいて各々がチョコを選んでいたが、文治の方はといえば
「文ちゃんちょっと買いすぎじゃ無い?」
スーパーのカゴより一回り小さいかごを持ったてつやが、もう半分以上埋まっているカゴを見て言う。
「かーちゃんがロイズ好きなのー。いっぱい買っていかないと怒られちゃうよー」 いや、だからって…と思う量である。
「全種類買う気?」
「まさかー」
ちょっと怖くなって聞いてみたが、そうじゃ無いようで少しは安心した。が、文治がカゴに入れてくる勢いは止まらない。
まあいいけどさあ…と諦めた時、後ろから頬が寄せられた。
「何だその量、どんだけ買う気なん」
京介が後ろからてつやの肩越しにかごを覗き込んできたのである。
「俺んじゃねえよ、文ちゃんのだよ。文ママがロイズ好きなんだってさ」
「ふう〜ん……ん?」
普通の返事を返そうとした時、2人の間に違和感が。
文治がてつやと京介の間に入り込んで、てつやの背中にぎゅうっと掴まっている。
「え?」
京介は34cm下を見下ろした。
よくみても、文治がてつやにくっついている。
「ん?」
京介は右に移動してみた。すると文治も右へ移動する。
「お?」
元に戻ってみると、文治も戻って来ててつやとの接着面を悉く邪魔をしている。
「文ちゃんなにしてんのよ。もう買い物終わり?」
てつやが背中に手を回して文治をポンポンするがその問いには首を振った。
「じゃあ前に来なさいよ、ほら」
と促されてもしがみついて首を横に振る。
「なんなんよ文ちゃん〜。わかんないよ」
背中に回した手で、文治の背中をもう一度ポンポン。
ーなに?なんなん?ー奇妙な顔をして頭を上げると、隣の大きな部屋いわゆる野菜売り場の境目の端で、まっさんが柱に寄りかかってこちらをみていた。
目を合わせながら京介が文治を指差すと、まっさんは一度大きく頷く。
今度はー何が何やらーと言った感じで肩をすくめて見せると、まっさんが指をくいくいと曲げーこっち来いーと京介を呼んだ。
「あ〜じゃあ俺、あっち見てくるから、ゆっくり選んでな」
てつやと文治の頭を交互に撫でて、京介はまっさんの元へ行く。
その光景は銀次と玲香も見ていて、銀次はなるほどねえ、みたいな顔をしていたが、玲香はニコニコと笑ってーかわいいーと呟いていた。
「なんなん?あれ。やっぱおかしいよな文治」
まっさんの元へ行き、少し行ったところの瓶詰めを見ながら話し合う。
「さっきもな、お前がトイレ行った時てつやも行こうとしてたんだけど、それを文治が腕引っ掴んで止めててさ」
へえ…と言って一つの瓶詰めを手に取り、これうまそ、と購入決定。
「あれだろうなあ…とは思うけど」
「あれ?」
「さっきそのトイレの話の時に銀次と玲香ちゃんと話したんだけど、文治の面倒を主に見てきたのてつやじゃん?」
「まあ、そうだな」
2人は瓶を手に取り確認しながら話を進めていく。
「それがお前とこうなってさ、まあ…『可愛いヤキモチ』かなってさ。そうじゃなかったらおっかねえ」
「あ〜近所の仲良いおにーちゃん取られたって感じ?」
「そーそー」
解る気はするが、急にきたな感が京介にはあった。
「さっきその話してる中でさ、玲香ちゃんが言ってたんだけど…やっぱ指輪じゃないかって」
ああ…指輪つけてからみんなと会ったのは今日が初めてだったかもしれない。
文治が朝てつやの指輪を見て、人妻になったのかと言っていたことを思い出す。
「やっぱ指輪 か」
京介は左手を上げて指輪を見た。
「ブレスレットは逃げ切れたのにな」
誰も何も言わないから逃げ切れていたと思っていたブレスレット。流石まっさんは侮れない。
「俺はお前が、たまにだけどこええわ」
「ありがとう」
返事も怖かった。
「で、どうすんだ?」
まっさんもお気に入りが見つかったらしく、瓶を1つ手に持つ。
「どうするったって、旅行中は文治に任せるしかねーわな」
もちろんてつやをと言うことだ。
「お前は平気なん?」
「文治だぞ?大体この旅行で2人でどうのなんて最初から考えてねえし、大丈夫じゃね?」
「そう、文治なんだよ。バットマンの息子のな」
京介の手が止まる。遺伝て意外と強い。
「やだな〜まっさん。そこまで考えてっとハゲるぞ」
「まあ俺も大丈夫だとは思ってる。だけどなぁ〜文治 の頭ん中は天才すぎてわかんねーからな」
その辺に積んであったカゴを手に取り、気になったものを入れながらでかい男のコソコソ話。
2人の頭に、車を返しに行った時のことが蘇っていた。
文父のあのショックな顔は、あの時は胸がすく思いだったが今思えばなかなか酷いことだったと思う。
もし「遺伝的てつや好き(w)」だとしたら、また文治にあんな顔をさせるのかな…とかも思うし親子2代でてつやに振られるってどんな悪夢よ…まで考えてしまっていた。
そんなことを考えながら、今度は地酒コーナーを見ていると
「なあなあ俺トイレ行きたいんだけど、誰か文ちゃん見ててくんない?」
とてつやがやってきた。
そういえば文治もお坊ちゃんだったなと思い出す。
「ほっとくとまじで全種類買いかねないんだよ」
文治もなんだかわからない感情に振り回されているのかもしれない。
「わかった、会計したらすぐいくから少し待てるか」
まっさんが足をレジの方向へ向けながら言うが
「なんだよ、京介でもいいんだぞ?」
「俺は訳あり〜」
今の文治に京介をつけるのはちょっとかわいそうな気がしてて、京介も十分理解していた。
「なんだよ、その訳ありの訳を教えろよ」
「後でな」
返事がまっさんからきて、てつやはーお?おお…ーと言うしかなかった。
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