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道の駅ラヴ&女将さん
てつやがトイレに向かい、まっさんが文治のところへ向かった後、京介は案内板で喫煙室を探し向かうことにした。
思えば那須のSA以来吸っていなかったことを思い出す。
ー結構遠いんだなーなどと思いながらトイレの前を横切った時、ちょうどトイレから出てきたてつやと会った。
「お、どこ行くん?」
「ヤニ〜」
手でタバコのサインをして伝える。
「そっか。結構我慢してたもんな。ごゆっくり〜」
と手を振って行こうとしたてつやだったが、振っていた手を不意に掴まれてーえ?ーと振り返ると、京介がもうその手を掴んだまま再びトイレへと向かって歩き出していた。
「なになに?俺、用済んだけど?なんだよ離せ…は?個室?」
言う間に個室に引っ張り込まれ、鍵をかけられる。
え?え?なんなん と思っている間に
「お前〜こんなとこのファスナーかますなよな〜」
完全棒読みではあるが、外に聞こえる程度の声で京介がそう言いだした。
「は?お前何言っ」
てつやの声は唇でかき消される。
「京介、いいかげんにし」
抵抗しようとした口は、抱きしめられて首をホールドされて再度塞がれ、少し激し目なキスをされた。
「文治が俺を敵認定した…」
と キスの合間に京介が囁いた。
「敵?なにが?文ちゃんが?」
京介の両頬に手を当てたてつやは、何が何だかわからずに質問ばかりを繰り返す。『?』ばかりの言葉に『ん〜〜』と小さな声をあげ、京介はてつやの首筋に懐いた。
「わかってねえのか…」
その首筋を嗅ぐようにスンスンと鼻を鳴らし、
「文ちゃんかわいそー」
と耳元で言ってやる。
「なんなんてほんと。まあ確かにちょっとおかしい気はするけど」
文ちゃんかわいそーまで言われては、おかしいとは本当に思ってはいたけれど、京介をどうのまでは気づいてないとは言えない。
「さっきから俺とお前の間に入り込んできてるの気づいてねえの?」
元々緩く履いていたチノパンの後ろに手を入れて、下着の上からてつやのソコを探ってゆく。
「お〜い〜、手…なにしてんのよ」
その言葉にそう言えば…とは思うが、それよりも京介の手。
「だからさ、多分夜もお前の側にいられなくなっちゃうと思ったら、つい…」
「ついじゃねえだろ、手やめろ」
うるさい口は塞ぐよ、とばかりに再再度キスをされ、てつやは2人の間にあった手を突っぱって
「夜はいずれにしろ、ここじゃやだよ俺…」
「他にない」
ほっぺにちゅうしたり首にちゅうしたりしながらも、手が下着の中に入り込む。
「究極狭い」
「お前ン家の風呂でヤるくらいだろ」
「綺麗な場所じゃ…ん…ない…」
入り込んだ指がソコを探り当て、揉みほぐすように蠢き出した。
「床に手をついたりしなけりゃ平気。このトイレだいぶ綺麗にしてるぜ。匂いもないし」
「寒い」
「2人であったまろうぜ」
指がソコに入り込みてつやは身を固くして
「んっだめだ…t」
指を動かされて声が詰まる。
「もう言い訳はないか?」
またほっぺにちゅうってして京介が微笑む。
この顔はもうやめてくれないな、と悟ったてつやは両手を京介の首に回し
「何度もないからな…こう言うところは」
と言って、自ら唇を寄せていった。
京介の空いた手は、既にてつやのチノパンの前を解いていて、起立しているてつや自身を擦り上げて、後ろの手は今までよりも深くてつやの中へと入り込んでいる。
「んっ…ふぅ…」
「しー…」
思わず出そうになる声を言葉で牽制して、握っているてつやを刺激した。
てつやも腕を離し、京介のパンツの前を開け、既に臨戦体制のそれを取り出す。
「かったいな…今日…特に」
興奮してる?と言いながら腰を折り、上を向いている京介を口に含んだ。
京介の右手は相変わらずてつやのバックを解し続け、てつやの口は京介の前を刺激する。
時々じゅる…と言う音を立てながら、てつやは頭を上下して唇で京介を刺激し、舌を絡めながら擦り上げた。
「てつや 結構煽ってくんね」
「だからかな…」
手で擦りながら口を離し、てつやは上目遣いで京介を見る
「いつもより…硬くてでかい」
そう言って舌先で先っぽを舐めながら笑った。
「くっ」
と声にならない声が京介の喉から上がり、最高の煽りに京介の強度は増したかもしれない。
「てつや…時間がねえから…後向いて…」
のってきてしまったてつやは、名残惜しそうに京介自身を離し、立ち上がって後ろを向く。
蓋に右足を付かせ、やり場のない両腕を後ろ手に掴まえた。
そして先ほどから露出している丸い二つの丘を数秒眺めてから、京介はその丘の間に自分を当ててゆっくりとではあるがしかし一気に奥まで差し込んでいった。
「はぁあぁ…」
気持ちのいい声をそれでも遠慮がちにあげ、てつやは背を反らす。
京介はてつやのブルゾンを捲り上げ、パーカーの中に下から片手を差し入れ未だ開発中の乳首を刺激し始めるとてつやの挿入部がきゅっと締まり、あげられない声をあげながらてつやは揺らされ、背中で快感を示してゆく。
その背中を見ながら腰を揺らしている京介は、いつになく興奮している自分に気づき、その動きを早めていった。
いつもと違う場所どころか、ありえない場所。ドアの向こうには人がいるし、なんなら声すら聞こえる。
その全てが煽りの対象だった。
京介だけではなくてつやも今までにない興奮を感じていて、声を出せない営みは次第に頂点へと向かってゆく。
「てつや…お…まえ今日…はぁ…すごくいい…」
囁くような声で、珍しく京介が声を出す。それなんかもう、てつやには最高の煽りの対象。
「はぁ…ぁ…お前の…もすげえよ…ぁ…」
てつやの腰も揺れ始め、ピストンを2人で助長し合う。
「ぁ…すげ、きもち…い」
てつやの両腕を両手で掴んで、押さえて突くような行為に京介は興奮した。
突くリズムと手を引っ張るリズムをずらすと、てつやの奥までガッツリと突き倒せる。
「ふぅ…んっ…そ…それだ…だめ…ふぅ…ふっ…ぅ」
大きな声が挙げられないてつやは、息を散らし、あまりの快感さに首を振ってその行為を受け入れていた。
「興奮すんの…おまえ…こんなとこで?変態なんかな…」
「お…まえな…あぁっ…あ…あ」
返答を許さず、京介の腰が深く押し入れられ、顎をあげて細やかな声をあげる。
その声に京介も興奮度が上がり
「俺も…変態か…」
そう笑って腰の動きを早めて、それに合わせててつやの前にも手を添えると擦り上げ
そして
「あぁ…い…いぃ…くっ…」
「…ぁ…はぁ…はっ。んんぅ」
早まっていた腰がぐいっとてつやにおしつけられ、京介が短い声をあげてつやの中へと解放すると、それと同時にてつやも自らを解放し、2人はほぼ同時に果てていった。
それから1分ほど動けなくて、そのまま息を整えた。余韻に浸りたい気持ちもあったが、いつまでもこうしてはいられない。
そろりと動き出した京介は、てつやから抜け出てトイレットペーパーで自らを拭い、てつやは蓋を開けて座り込んで
「これだけは便利だな」
などと言ってウォシュレットで、出されたものを洗い流した。
それからは急いで身なりを整える。
整えながらキスを何度もして、時間のない隙を埋めて行く。
すごく感じてしまった。
お互いの顔がそう語っていて、手を絡め合って舌を絡めた。
本音は余韻をもっともっと味わいたかったけど仕方がない。
ドアを開ける前にもう一度深いキスをして
「やっぱゆっくりがいいよな」
と言い合い、そっとドアを開け様子を伺った。
見えるところには誰もいない。
ほっと息をついて、まず京介が出てゆき、少ししてもう一度水を流してからてつやが出ていった。
京介はそのまま喫煙室へ向かい、てつやは急いでロイズの売り場へ向かう。
「いやぁ〜わりぃ。食い過ぎかな、腹壊しちゃって」
ほんの短い間に目の下にクマができているまっさんは
「だと思ったよ、なげーから」
とうんざり顔。まっさんの手には二つのカゴが存在し、二つ目と思われる方にも既に三分の一の量が入っている。
「ちょっと文ちゃん!幾ら何でも買いすぎだぞ!だめ!」
てつやは二つ目と思われるカゴを受け取って、すみません、ごめんなさいと売り場に戻してゆく。申し訳ないと思うが、ここまで買わせられない。
その際まっさんの前を横切ったてつやから香った香りがまっさんの鼻をくすぐった。
それは、朝からずっと隣から香ってきていた京介のヘアワックスの香り。
『は?こいつまさか…』
もうまっさんの前ではみんな厳戒態勢敷いてないとダメなんだよ…。
「文ちゃん、カゴ一個ね一個!それにだってこんなに入ってるんだから」
店の隅で言い聞かせているてつやを、うすーーい目で見るまっさん。
しかしまぁ…今夜は2人きりなんて最初から考えてないって京介も言ってたし…文治のこともあるから仕方ねえのかなと思ってみることにした。見境のなさにため息は出るけれど。
「俺もかーちゃんに2.3個買ってくか…」
そう思って手にするのが、さっきてつやが仕方なく戻して行った商品。こんなところもまっさんの流儀。
「そろそろ行くかぁ?」
銀次と玲香がやってきた。
銀次の手には5つものロイズの紙袋。
「玲香さんだってあんなに買ってるよ!てっちゃん!おれだっていいじゃん!」
文治がてつや名指しで言い募るが銀次は冷静に
「文治〜これはな?2つは俺の店のスタッフ用。3つは玲香ちゃんとこのスタッフさん用だ。文治のは誰に配るんだ?」
と言ってくれた。嘘ではない。
かーちゃんと自分の分だと思っていた文治は、流石に多すぎるとやっと気づいたらしい。
「返してくる…」
口はとんがっているが、しおらしくかごを取ろうとする文治にてつやはかごを渡さず
「もう返すのはお店に失礼になっちゃうから、半分俺が引き取るね。大家のばあちゃんとこ渡しにいこうな。まああとは…これから業者さんとかも入るから、その人たちにもあげよう」
腰を屈めて静かに言い聞かせると
「わかった…」
と小さい返事。
そしててつやと一緒にレジに向かって、漸くチョコ騒動は終わった。
京介に『車で合流』のLINEを送り車へ移動。
車へ来た時には、既に京介が着いていて後のトランクの扉を開けてコートをしまっているところだった。
少し遅いなと思っていた一行に、遅かったなと言おうとして文治の手にあるソフトクリームを見て納得。
外に出たときにロイズのソフトクリームが売ってるお店を見つけちゃった文ちゃんは、チョコ諦めたんだからこれ買う!と言い募り、少し並んでゲットしたのだった。
揃ったところで出発。またしてもまっさんが運転してくれると言うので頼み、一行はようやく鳴子へと向かうこととなった。
「やっと温泉か〜〜〜車に長いこと乗ってたから身体バキバキだわ」
伸びをしながら、てつやが温泉へ思いを馳せる。
「湯上がりのビールって最高なんだろうな〜」
「俺はコーラだけど、きっと最高だろうな〜」
どうも2列目は飲食から離れられない性質 らしかった。
『鳴子温泉』と書かれたところを左折して、2台は鳴子温泉へやってきた。
玲香のホテルはずっと奥まで車で走り、ある場所を左折した突き当たりだ。
駐車場の場所も玲香に着いてきたので迷わず入れて、案内されるままにホテルへ入る。
まっさんがチェックインをしてる最中に、大きめなカートがやってきてみんなの荷物を積んでくれて、
「じゃあ、お世話になります」
とキーを受け取ったまっさんが来た時には、中居さん2人と玲香が先導して部屋へ案内してくれた。
途中通路に敷いてあるカーペットの色が変わったことには気付いたが、少し歩くなぁと思っていた部屋は、道すがら数えたドアは二つしかないような離れになっていた。
てつやたちの部屋は1番奥。
まっさんが持っていたカードキーで開けると、そこには前室がありそこにも畳が敷いてある。
その奥の襖を開けると、広く広がる主室が展開された。
気になるのは襖を開ける前に右手にあった通路だ。そこはてつやと文治が偵察に赴いている。
中居さんたちが前室へと荷物を運んでくれている間に主室へ入って窓の景色を見ると、木々が雪を被った状態で白と黒のコントラストを浮き立たせ、水墨画がはまったように見える窓に目を奪われた。
「山しか見えませんよね」
玲香が笑って、お茶の用意を始めた。
荷物を運び終えた中居さんが、簡単に浴衣の場所やタオルの場所、アメニティの説明などをしてくれて、最後に食事の時間を聞いてくれた。
離れは部屋食ということで、現在17時15分ほど。一風呂浴びたいし…ということで18時半にお願いすることにする。
中居さんはわかりましたと退室してゆくが、それをまっさんが追っていって入り口付近で声をかけ
「今日はお世話になります」
と小さなポチ袋を中居さんへと渡した。いわゆる心付けだ。
中居さんは両手で受け取ってーありがとうございますーと軽く上に掲げた挨拶をしていった。
「玲香ちゃんすごい部屋なんだけど、いいの?」
偵察を終えたてつやと文治に聞くと、通路を行くとドアが2つあって、一つは狭いけど机があって書斎みたいなところ、もう一つはまた和室で、そこにもテーブルが置いてあったがテレビも何もない部屋だったらしい。そして奥へゆくとそこが内風呂になっており、ドアを開けたらやはり主室同様大きな窓があってそこから水墨画のような景色が見えたが、なんと外に露天風呂まであった。
だからてつやが興奮して上記の言葉になっていた。
「この部屋だけで十分なのに、2部屋な上に露天まで?」
さすがに全員引くレベル。
玲香はお茶を分けながら、
「5人様をご宿泊させるお部屋がなくて別れてしまいそうだったんです。この部屋が空いていたのもあってここに。気にしないでくださいね、ゆったりお過ごしください」
どうぞと言われお茶を飲むが。この部屋自体広くて落ち着かない。
「でもいい部屋です。ありがとう」
京介が窓を見ながら礼を言って玲香を見た。窓の景色が気に入ったようだ。
「では私は一旦。また顔を出させていただきますね。ごゆっくりお過ごしください」
そう言って密かに銀次にバイバイの手を振って、麗華が退室して行った。
「いやしかし、すごい部屋だなマジで」
仲間だけになり、気持ちもラフになった一同は、部屋中を覗きに行ったり露天風呂を見てまずここに入るかななどと好き好きにやり始めたが、
「大浴場へ行くやついるかー?」
のまっさんの声に全員がゾロゾロと主室へ戻り、結果全員がまずは大浴場だろ〜と一緒に行くことになった。
大浴場とは言ってもバカ広いわけではなく、岩風呂とタイルの風呂が二つ、そしてそこにも露天風呂が存在していて、てつやと文治が後で行こうねと話し合っている。
「はぁ〜〜〜〜」
「まっさん爺さんみてえだぞ」
洗い場で銀次が笑っている。
「ばっかお前入ってみろよ。すげー気持ちいい泉質だぞ」
「どれどれ」
洗いおわった京介が先にやってきた。岩風呂に2人。
他にも3人ほどいたが、皆さん露天風呂に行ったので、暫定的な貸切状態になっている。
「はぁっ〜〜〜〜」
京介も同じような声をあげ、どんだけ気持ちいいんだと銀次は焦り、シャワーで体を流してすぐに入ってきた。
「お!これはなかなか」
声が出る理由は、微妙にとろみを感じる泉質で身体にフィットするような感覚とちょっと熱めな温度、そして硫黄の香り。
「はぁあ〜〜〜」
「な?声出るだろ?」
3人は肩まで使ってゆったりと過ごす。
てつやは文治と2人タイルの方の湯船で相変わらずのゆらゆらをしていて、まっさんにー他のお客が戻ってきたらやめろよーと言われていた。
いつまでも浸かっていられそうな温泉だが、温泉が故に湯当たりもありそうで、また来ればいい、と言うことで堪能はしたが早めに切り上げた。
温泉の効果はこれからで、出てからも体の芯までポカポカして汗こそでないが浴衣の丹前がいらないほどだ。
「いっそ暑いくらいだな」
浴衣の前をパタパタしている京介の頬も赤い。赤いのは全員か。
部屋へ戻ってタオルなどをかけているとチャイムが鳴り、お食事のご用意をさせていただきます、と中居さんがやってきた。
お願いしますと招き入れ、中居さんはテーブルの上を軽く片付けてから、木でできた『ばんじゅう』を三つ抱えてきて、準備を始めた。
邪魔にならないように京介とまっさんは広縁の椅子に座って景色を見たり、テレビの前で文治の持ってきたトランプに興じているのはてつやと文治。銀次はチャンネルが違うな〜と面白がって変えながらも、脇でスピードで盛り上がっているのをチラチラと見ている。
準備が整い、中居さんがどうぞと言ってくれたので全員が席に着こうとする時またちょっとした異変。
人数の関係上テーブルにつく配置が3人と2人になる。
てつやが何気なく座ったところが2人の方で、なんとなくみんな京介が行くだろうと思っていたてつやの隣。
そこへは文治が陣取り、ーてっちゃんの隣〜ーとニコニコしていた。
他室へタバコを吸いに行っていた京介が戻ってくるが、その光景を当たり前のように見てまっさんの隣へ座る。
まあ…いいんだけどさ…銀次とまっさんは顔を見合わせ微妙な顔になってしまった。
ビールを注ぎ合い、文治にはコーラを注ぎ
「長旅おつー」
と言う掛け声で食事は始まった。
小鉢がたくさん並んでいて、済むごとに中居さんが次々と運んでくれるスタイル。
そうでもないときっと乗せ切らないのだろう。
そして中頃に運ばれてきたのは、
それは大きな舟盛りだった。
「園田からでございます」
との中居さんの言葉に、全員銀次を見てありがとうと言ってしまう。
「俺に言うなよ」
確かにそうだが…。もう一度中居さんによろしくお伝えくださいと伝え、ありがたくいただくことにする。
卓上で焼く仙台牛や、川魚の焼き物。船盛りとは別のお刺身小鉢。山の物海の物満載の食事に一同は大満足だ。
ゆっくりと話しながら食事を終え、食べた先から片付く手際のいい中居さんのおかげで、早めに仲間だけとなれた。
ビールを後5本ほどお願いして、全員その場に仰向けに寝転ぶ。
「もう入んね〜」
絶対標準の料理じゃないだろう的な物で、本当に玲香ちゃんに感謝しないとだし、3位になってくれた銀次にも大感謝だ。
「この満腹感は何で消化できるんだろう…」
銀次が呟くが、その術は誰もわからない。
「てか銀次、玲香ちゃんと出かけるんじゃなかったっけ」
てつやが自分枕で銀次に向き直る。
「出かけるけど、事情変わってさ。このホテル最上階にバーがあるんだって。そこに飲みに行くことになったんだよ。考えてみれば車で出たら一緒に飲めないもんな」
温泉のバーやスナックは、浴衣でも行けるので情緒がある。
「玲香ちゃんも温泉入って浴衣で来るって言うしな〜」
楽しみそうである。
「お、銀次チャンスじゃぁ〜ん」
京介も寝転びながらもグラスのビールを口にする。
「お前ね、親御さんもいるここは家みたいなもんだぞ。しかも彼女の職場だ。やるわけねーだろ、いやできねーわ」
「やるって何を?」
文治がてつやに聞いてくる。
「ん?あれよ文ちゃん、ちゅっちゅのこと。ちゅーって」
「なんだー、チュッチュくらいしてあげればいいのにー」
チュッチュくらいなら別にな…と大人たち含み笑い。
などと話しているとまたチャイムがなった。
「誰だろ、玲香ちゃんかな?」
とまっさんが対応に行くと、ドアを開けたところには高そうな着物をビシッと着こなし、髪もきっちりと和装に合うように結い上げた女性が立っていた。
「女将の、園田公佳でございます。御挨拶に伺いました」
玲香の母親だった。
まっさんは中へと通し、女将は失礼しますと部屋へ入った。
入り口の襖前に正座して深く頭を下げ、
「本日は遠いところお越しくださり、誠にありがとうございます」
と挨拶をしてくれた。
今までダラダラしていた5人も正座になっていて、釣られて頭を下げる。
「先日は、娘の玲香が皆様の所へ出向き、大変お世話になったと聞いております。そちらも重ねてありがとうございました」
ー娘・玲香ーと聞いて、銀次の中で現実味が湧いてくる。
「こちらこそ、年末年始のお忙しい中こんな立派な部屋をご用意いただいただけではなく、過分なお心遣いをいただき心より感謝いたします」
持つべきものはまっさん。
「いえいえ、こちらもたくさんのお土産をスタッフにまで気を配っていただきまして、ありがとう存じます」
お互い深く礼を尽くしあった。
「ところで、お話を私事に変えさせていただきますが、花江銀次様は…」
女将が核心に触れてきた。いや、もう玲香の母親と呼ぶ方がいいかもしれない。
その言葉に全員が銀次を見つめる。その眼差しが『頑張れ』の一言。
銀次は腹を括り、テーブルから50cmほど離れて畳に手を付き、
「私が花江銀次と申します。玲香さんとは、先日の12月22日にお付き合いを申し入れ、良いお返事をいただき交際をさせていただくこととなりました。どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って、テーブルの高さほどのお辞儀をした。
玲香の母、公佳も背筋を伸ばし、優しい笑みで銀次の言葉を受け取ってくれた。
「玲香より聞き及んでおります。どうぞよろしくお願い申し上げます」
こちらも今度はさほど深くないお辞儀をして、それに釣られて銀次以外の全員もが頭を下げてしまう。
そこからは少し和やかなムードになって、話が進んでゆくこととなった。
「皆さんは、あの…ロードローラーをやってらっしゃるチームの方々なんですよね」
公佳の口からロードの話が出たことに瞬間驚くが、思えば玲香もローラーだった。
「そうなんです。この5人でやらせて貰ってます。彼がうちの看板ローラーで、我々は彼の優勝をサポートしています」
てつやがいきなり振られて、照れくさそうに頭を下げる。
「あなたが⁉︎玲香が毎回、抜けない人がいるときいていましたわ」
と、驚いていた。
結構前から自分らのこと見てたんだな〜と改めて思う。
「玲香も小さい頃からあのゲームが大好きで。YouTubeなどで毎回見ていましたが、とうとう参加するようになって…兄たちがサポートしているんですけれどね、今回はなぜかボーイフレンドまで見つけてきましたわね」
今度はコロコロと笑う。その笑顔が玲香にそっくりだった。
「これからロードも含め、玲香さんは花江に会いにくることもあると思いますが、我々のことも知っておいていただければご両親も安心されると思うので、自己紹介をさせていただいてよろしいですか」
「ご丁寧にありがとうございます。ぜひお聞かせください」
まっさんは言った手前先陣を切って正座をし直し、
「私は、広田正直 と申します。自転車店を経営しております」
公佳はよろしくお願いします、とお辞儀をした。
「浅沼京介と申します。遠くから失礼いたします」
と言って京介は身を乗り出して名刺を差し出した。
「このチームで唯一会社員で、こちらの会社で働かせていただいております」
両手で名刺を受け取り、名前と会社名を確認した公佳は、
「存じ上げている会社です」
旅館の女将が知るところの会社とはそうそう小さくはない。
「下っ端です」
と恐縮して頭を下げた。
公佳も先ほど同様よろしくお願いしますと頭を下げる。
以降全員によろしくと頭を下げてゆく。
「加瀬てつやと申します。自分はビルとマンションのオーナーをやっています。よろしくお願いいたします」
この場合よろしくお願いしていいのか?とまっさんの頭で『?』が広がる。
文治の番になったが、場慣れ及び経験値の不足で声も出ないほどに緊張していた。まっさんが代わりに
「こちらは、我々の弟分で、大学2年生の横山文治です。ロードのサポーターとして今年デビューしました。文治、名前くらいは自分でお伝えして」
まっさんに促され
「よ…横山文治です…文ちゃんって呼んでください」
おい?文ちゃんって呼べって…全員が冷や汗をかく中、公佳は
「かしこまりました、文ちゃん」
と笑って言ってくれた。さすが大人数を束ねる女将さんだ余裕の貫禄。
「銀次さんはパン屋さんを経営されていると聞きました。皆さんお若くていらっしゃるのに、ご立派なお仕事をされて。玲香でよろしいのやら…」
ー格が違いますってーと思っても言えない5人
「聡明なお嬢さんで、こちらとしては銀次でいいのかと逆に戸惑っています」
ほんとですよだの、そうなんですよねなどと言った言葉が、こなれた空気の中聞こえてきて、公佳も笑い和やかなうちに女将の挨拶は終わった・
「うはっ…ばか緊張したわ…」
流石のまっさんも、横への正座崩れの女座りでぐったりしている。
「まっさんすげえな。よくあんな言葉がペラペラ出てくるよ」
てつやが俺なら舌噛むわ、といってまっさんを褒め称える。
「ペラペラ言うな…。こっちは銀次の恋愛も絡んでて、余計なことは言えねーからさあ…今言うけど…何喋ったか覚えてねえ」
「まっさんにもそんなことあるんだな」
京介はすでにビールをグラスに注いで飲んでいた。
「人をロボットみたいに言うなよ。ボクだってジャッカン25歳のオトコノコなんだよ」
「きっしょ!」
ゲラゲラ笑って、それからは仙台や道の駅で買った酒やつまみを出して飲み会が始まり、銀次は9時になった頃玲香ちゃんから連絡をもらい、出かけて行った。
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