誉が指を引き抜くと、ぽっかりと空いたカイの孔が名残惜しそうにひくひくと収斂した。 そこに己を充てがって、するすると擦り付ける。 するとそれを追いかけて、カイの腰が揺れた。 「がっつかないの、ちゃんとあげるからね」 誉はカイの頬を撫で、準備をしながらその呼吸が整うのを少し待つ。 その間もカイは切なげに後孔をひくつかせ、早く早くと腰を揺らしている。 誉は愛おしそうにそんなカイの尻を撫でると、 「お待たせ」 そう言って一気にカイを穿った。 びゅく、とカイのペニスから体液が飛ぶ。 誉がゆっくり突く度、気持ちよさそうに体を震わせながらカイは体液を吐き出した。 「ふぅう…っ」 カイが下唇をぎゅっと噛む。 誉は直ぐに口を開かせて、親指を滑り込ませた。 そのまま舌先を指で弄る。 カイの小さな口は、誉の親指だけでもいっぱいだ。 カイは半開きのそこからてろてろとよだれを垂らしながら、誉に突かれる悦びに体を震わせた。 「カイのお腹、俺のでいっぱいだね」 誉はカイの薄い腹を撫でながら、うっとりとそう呟く。 わざと上を擦ってやると、肉のない腹は誉の形に盛り上がった。 それはとても煽情的でたまらない。 しかしそうしているうちに、荒くなるカイの呼吸に紛れて、ひゅ、ひゅ、と言う高い音が聞こえ始めた。 それを少し惜しく感じながら、誉は腰の動きを早めていく。 「…はあ、仕方ないな。 今日は、このくらいだね」 そしてより一層強く打ち付けてやる。 その瞬間、カイは足をピンと張り誉の欲を受け止める。 「……はあ」 残滓までカイの中に放ち切り、誉は息をつく。 「カイ」 そしてじっとりと汗が滲んだカイの額にキスを落とした。 それだけでは留まらず、鼻の頭、頬、そして最後にその唇をちゅっと吸った。 「カイ、愛してるよ」 誉はそう呟いてスヤスヤと眠るカイにもう一度だけキスする。 そうして迎えた 翌朝。 起きてからずっと、ウサギさんの機嫌が悪い。 誉はその2つの理由を知っている。 1つ目、腰が痛い。 それは確実に自分のせいなので、先ほど努めて優しく宥め、湿布を貼ってやって事なきを得たところだ。 そして2つ目、これはもうどうしようもない。 家に帰りたくないのだ。 余程ここの居心地が良かったのだろう。 誉はさっきから部屋の隅っこで膝を抱えてメソメソとしているウサギを何とか好物の甘いパンケーキで釣ろうとしているのだが、なかなか上手くいかない。 これまで何度か誉の家に遊びに来たことがあるカイだが、ここまで駄々をこねるのは初めてだ。 刻一刻と帰る時間が迫るごとに、彼のご機嫌はぐずぐずに悪くなっていく。 彼もまた、葛藤しているのだ。 誉ともっといたいという感情と、そんなことは許されないという理性と。 「タバコ吸ってくる」 「あ、こら、カイ」 とうとう我慢できなくなったのかワシャワシャと髪の毛を乱暴に掻き毟り、カイはそのままふらりとベランダへと向かおうとする。 その手に掴んだ煙草を寸前の所で取り返し、誉は怒った。 「駄目だよ。 昨夜も肺から変な音がしてたんだから」 「いやだ、吸う。返せ」 「返しません。また喘息の発作が出たら嫌でしょ」 「別にいいから、吸う。返せ、吸う！」 カイは大きな声でこう言うと、手を伸ばしながらとうとうボロボロと涙をこぼし始めた。 もうここまで来ると、癇癪に近い。 「俺は君が苦しむのは嫌だよ。 だから俺のためと思って、今日は本当にやめてよ、ね？」 ひくつくカイを抱き寄せて、誉は優しく声を掛ける。それでもカイは諦めずにいやいやと首を横に振って、その腕から逃れようと暴れた。 カイは喫煙をする。 最初はこんな子がと驚いたが、話を聞くと中学の始めにはもう吸っていたそうだ。 そして、それが彼の自傷行為だと誉は気づいている。 歪な家族との関係、祖父から向けられる過剰な期待、母親からの異常ともとれる愛情、抱える持病、櫂は様々なしがらみに縛り付けられながら"良い子"であることを強いられている。 そのどうにもできないストレスを何とか昇華させようと模索して、たどり着いたのがきっと喫煙だったのだろう。 喫煙は、手軽にできる"悪いこと"だ。 彼の母親は喫煙をするから、比較的手に入れやすかったこともあるだろう。 櫂はそうやって作り物の良い子の殻を破り、つかの間の自由を得て、何とか自我を保っているのだ。 「しんどいね、分かるよ」 「わかんねえよ、お前になんかわかんない」 「分かるよ、俺も家族から逃げたからね」 カイの動きが止まる。 顔を上げて、キョトンとした顔で誉を見た。 誉はその瞳に浮かぶ大粒の涙を拭ってやりながら続ける。 「俺の祖父も厳しい人でね。 ちょっとでも気に入らないとボコボコに殴るんだ。半分ボケてるくせに、力だけ強くてさ」 「……」 「父は父で、長男なのだから家業を継げ、親の面倒を見ろの一点張りでさ。家業って言っても君の立派な家とは違って、潰れかけた小さな食堂だよ。 母はパート先で知り合った人といい関係になって帰ってこなくなっちゃったし。 弟はご存知の通り、難病で病院から出てくる目処もないしね」 「う、なんかごめん…。 思ってたより全然壮絶だった…」 「あはは、俺も言ってみて思ったけど、そうだね。 でもまあ、田舎ではままある話だよ」 誉は複雑そうな顔をしているカイの頭を撫でながら続ける。 「でね、俺は思ったんだ。 ここにいたら、俺の人生はこいつらに食いつぶされてしまう。 だから、何としても逃げなくちゃ、家を出ようって。 だけど、丸腰で家を出るわけにはいかないよね。 なにか一人で生きていくための武器がないと。 じゃあどうしようかなって俺は考えたわけ」 「……」 「でね、俺は勉強が好きだったし、成績は人一倍良かった。 だからそれを武器にすることにしたんだ」 「……」 「カイもよく考えるんだよ。 でね、俺は実際にやってみて気がついたのだけど、武器は一つでも多いほうがいい。 そしてきっと俺は、君の武器の一つになれるし、なるつもりでいるよ」 「……」 カイはその後、誉の腕の中で俯いて考え込んだ。 すっかり気持ちも落ち着いたようだ。 そうやって暫く背中を撫でながら待ってやると、カイはすっと顔を上げて、言った。 「わかった」 誉はいつもの通りお利口さんだと言い、もう一度強くカイを抱きしめてやった。 それから、 「そうだ、ちょっと待って」 と、一度カイから離れると玄関の方に向かい、狭い靴箱を開けるとすぐに戻ってきた。 「手を出して」 カイが小首を傾げながらそうすると、誉が何かを載せてぎゅっと握らせる。 ゆっくり手を開いてみると、それは鍵だった。 白いウサギさんのマスコットがついている。 「これ…」 「お守りだよ。 辛かったら、いつでもここに来なさい。 昨日みたいにお母さんへの言い訳は俺が何とかしてあげるから、安心して逃げておいで」 手の中の鍵を見つめるカイの鼻が、すんと鳴った。 そして誉の胸に顔を押し付け、すぐに肩を震わせ始める。 誉はその背をただ優しく撫で、ゆっくりと待った。 少しの後、カイは再び顔を上げた。 そして、その赤い瞳に誉をまっすぐに映しながらハッキリと返した。 「わかった」