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30.週末デート⑤
やってしまった。
目覚めたカイは顔面蒼白で頭を抱えた。
今すぐにでも逃げ出したくてたまらないが、誉がガッチリと自分を抱きしめて眠っているので叶わない。
昨夜誤って酒を飲んだことも、誉にキスを強請ったことも、"あんなこと"をしてしまったことも全部覚えている。
よく小説では酒を飲み記憶を失うという描写があるが、残念ながら今回都合よくそれは自分には起きなかったようだ。
太ももに、まだ固く熱い誉の感覚が残っている気がする。たまらずカイはもぞもぞと太ももをこすり合わせてそれを打ち消そうとする。
あの最中、誉はとても気持ちいいと言っていた、あんな上擦った声は初めて聞いた。あんな顔も、初めて見た。
次に身体を丸め、薄い腹に触れる。
ここで、誉の欲を受け止めたのだ。
自分以外のそれを見たのは初めてだったが、量も多く濃いそれに些か驚いた。
そして自分は誉のそれを食んでしまった。
誉の指がそうしろと示唆したのもあるが、単純に興味が沸いた方が大きい。
誉の味をもっと知りたかった。
けど、いくらそうだとしても、あれは精液だ。
それを舐めるなんて何を考えていたんだ、オレは。
そうしてまたカイは頭を抱えて、ウウウと唸った。どう考えても頭がおかしいとしか思えない。
それとも、アルコールのせいにしてしまえばよいのだろうか。
だが、それをもっと欲しいと思ってしまった欲求がそこにあったことは事実なのだ。
「大丈夫?頭痛い?」
と、その時上からそんな優しい声が振ってきた。
顔を上げると、誉が心配そうにこちらを見下ろしている。
「あ、いや、頭は痛くない」
「そう?吐き気は?」
「特にないけど…」
「そっか、良かった」
誉はそう言うとホッとしたように息を吐いた。
それからカイをぎゅっと抱き、ふふと声を漏らす。
「幸せだなあ」
「え?」
「起きた瞬間から一番好きな人と一緒だなんて。
こんなに幸せなことはないよ」
「……朝起きた瞬間から恥ずかしいこと言うし」
「だってそうなんだもの。
それに昨夜、凄く気持ちよかったよね〜。
カイがあんなにエッチな子だとは思わなか」
「わー!それは言うな!」
「あ、結構記憶残ってる感じ?」
「……うん」
「まぁ、確かに飲んだと言っても量が量だもんね。度数も低いし……ってことは」
誉はそして満面の笑みで言うのだ。
「元からカイがエッチだってことだね!」
「なんでそうなるんだよっ」
「もー、ただでさえ可愛いのに更にエッチだなんてもう最高だよ」
「だから違うっ」
「大好きだよ、カイ。
俺のこと好きになってくれてありがとうね」
「………っ!」
不意に、そんなことを言うのはずるい。
カイは顔が熱くなるのを感じながら、何も言えず黙り込む。
他人からこんなに真摯に、そしてストレートな愛情表現を受けたことがないから、どう返したら良いか分からない。
誉はそんなカイの額に軽くキスをして、またぎゅっと抱き締めてくれたので、おずおずとその胸に頬を寄せる。それが今のカイに出来る精一杯の返事だ。
しかし、そんな甘くいい感じだった雰囲気は、すぐに誉の無神経な一言と行動で台無しになる。
「はあ…朝からカイが可愛すぎて勃った…」
「は?」
「ほら…」
「……ッッッ!」
誉の大きくなったモノをいきなり掴まされてカイは目を見開き肩を上げる。
「あ、ちょっと気持ちいい」
しかもそれをカイの手ごしにすりすりと擦り始めま上に、
「カイのはどう?あ、勃ってるじゃないか。
健康だね〜」
と、自分のものにまで手を伸ばしてきたので、流石に怒った。
「誉のバカっ、もうやだ!」
「ええっ」
そう言って手を無理矢理離すと、ぷいと誉に背を向ける。
「カイ、どうしたの?」
「知らない、もういやだ」
「カイ〜」
誉は諦め悪くカイを背中から抱き、すりすりとうなじに頬ずりする。
それがくすぐったくてたまらなくて、
「やだっ」
と、そこを抑えながら振り向くと不意打ちで誉がちゅっと唇にキスをしてきた。
「〜〜!!!」
誉がにんまりと笑う。
カイはそこを抑えながらまた誉に背を向けた。
が、その背中を誉の腹にくっつけたままで離れる気はないようだ。
可愛い天邪鬼に誉はまたほくそ笑むと、今度はきちんと抱いてやった。
そしてその真っ赤な耳にもう一度キスをして、
「愛してるよ、カイ」
と、優しく囁いてやったのだ。
昨夜誤飲したアルコールによる後遺症は無く、今日のカイは元気そのものだった。
先ほど念の為に体温と血圧と脈拍、胸の音、血中酸素濃度と一連も確認したが特に問題なかったので誉はホッと胸を撫で下ろした。
カイみたいな人こそスマートウォッチを持つべきだと思った。今度、プレゼントしようか。
カイはスマフォを持っていないが、データは自分のに送るようにすれば良い。
そうすればカイの体調が何時でも手に取るようにわかるし、基礎データも取れる。
それは冷静に考えると最高ではないか。
よし、決めた。今度と言わず今日買い与えよう。
誉は心に決める。
一方でカイは好物のホットケーキをいつもよりフルーツ多めにして出してやってようやくご機嫌が直ったようだ。
そういえば、以前よりも少し食が太くなったように思える。今日のホットケーキは少し大きめに作ったつもりだったが、しっかり完食出来そうだ。
同じ年頃の男子に比べれば雀の涙のような量だが、カイにとっては大きな進歩だ。
そして、その成長の一翼を担ったのは間違いなく自分なのだと思うと余計に嬉しい。
「カイ、美味しい?」
「うん、美味いよ」
「そっか。良かった」
カイがモグモグと動かしている口元、嚥下のたびに下がる喉仏を誉はじっと見る。
元々、自分が作ったものを与えることでそれがカイの血となり肉となることに多幸感があった自覚があるが、やはり昨夜カイに精液を舐めさせたとき程のそれではない。
誉はカイの口元についたシロップを拭ってやりながら考える。新たな愉しみを見つけてしまった。
直接口に押し込んで飲ませるのも良い。
とりあえずそれは今夜早速するとしても、こんな風に何も知らさず体内に取り込ませるのは、もっと面白そうだ。さて、どう料理してやろうか。
「そーゆうのやめろよっ」
誉がごく自然に指に付着したシロップをカイの頬から口に運び、そのままペロリと舐めると、カイが真っ赤な顔をしてそう言ってくる。
こんなことはもう何度もしてるのに、毎回毎回新鮮に照れてくれて可愛らしい。
「カイみたいにとっても甘くて美味しかったよ」
「もう!」
誉はニコニコと笑いながら、きっと混ぜるならシロップのような味が濃いものが良いんだろうな、なんてことを考えていた。
朝食を終えると薬の時間だ。
カイは誉も若干退くほどの服薬を強いられている。しかも喉が狭いので、一度に2、3個しか飲めないので時間もかかるし水だけでお腹がいっぱいになってしまう。
本人も何の薬を飲まされてるのか把握していない様で、いつも瀬戸に出されるがままらしい。
だからきっと数錠混ぜても絶対に気が付かない。それはそれで誉には好都合だが、とても危うい状態だ。
カイは本日朝分のピルケースを開きながら、心底嫌そうにため息をつく。
「吸入からする?」
喘息用の吸入薬だけでも3種類、1つにあたり5分程度ずつ時間を置かなければならないので時間もかかる。それでも体が大きくなるにつれ減ったのだと本人が言っていた。
「する…」
カイはそう返すと、当たり前のように誉の膝によじ登った。そして誉の胸に背を預けて座るのが最早定位置になっている。
吸引薬を当てると、これもまたごく普通にあーんと口を開いた。自分でやる気は全く無いらしい。
ちなみにカイは瀬戸と自分からしか薬は飲まないそうだ。
だから誉が飲ませることが出来ると知り、瀬戸は大いに安心したと先日、本人から言われた。
これで自分に万が一のことがあっても、誉に任せられると、冗談とも本気ともつかないことを言っていた。
そもそも、まずは自分で飲むことを覚えさせるべきだと誉は思うが、瀬戸も大概カイに甘い。
しかし一方で、それは如月家の信用を勝ち取ったという証拠で、だからこそこういったお泊りも許容されている訳だから喜ばしいことだ。
次の吸引を待つ間に、誉はカイの髪を櫛で梳いてやる。柔らかく滑らかな白髪は、光を受けてキラキラと光りとても美しい。
「今日はこの後ね、大きな街に出ようと思うんだ。カイは電車って乗ったことある?」
吸引中は喋ることが出来ないので、カイはふるふると首を横に振る。
その後不安そうに誉を見た。
「なら丁度良かった。
大丈夫だよ、一緒に手を繋いで乗ろう。
怖くないよ」
カイは誉の胸に頭を擦り付けた後、小さく頷いた。
こうやって、初めてのことにもすぐに逃げずに勇気を出せる様になったのも良い傾向の一つだ。
誉は二本目の吸引を口に当ててやりながら言う。
「それでね、プラネタリウムに行こうと思うんだよ。ほら、この前本屋さんで買った本あったでしょ。あれがテーマの上映があるんだ」
またカイが振り返ってくる。
そちらは不安よりも興味が勝っているようで、嬉しげな顔をしていた。
「今日は初めてのデートだね。
たくさん楽しいことしようね」
誉がそう言うと、カイは恥ずかしそうに顔を赤らめた後に、誉の手を両手でぎゅっと握った。
それからコクンと頷いて、甘えるように誉の胸に頭を擦り付けた。
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