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57.放課後レッスン②
準備してきて下さいとだけ言われ、満に脱衣所に押し込まれた航は、洗面台の上の置かれた籠の中身を見て頭を抱えた。
また今日も女のように犯されるのだという宣言にも等しいグッズが入っている。
元来の真面目さが起因して、航が事前に準備のやり方を調べてきている事を先読みしているのか、特に説明書的なものはない。
浴室の横は直ぐに玄関なわけだから、逃げようと思えば物理的には可能だ。
しかしそんな事をしたらどんな報復を受けるか。
そう考えると結局従うしかないという結論に至る。
航はバンバンと頬を強く叩くと、深く息を吐く。
試合前によくやる邪念を捨てて集中を高める行為だが、まさかこんなところでも使う羽目になるとは思わなかった。
航は覚悟を決めて、服を脱ぎ始める。
三十分ほどで彼はリビングに戻ってきた。
ワイン片手に待っていた満は、またもや髪の毛が濡れたままの彼を見て吹き出す。
「あなた、髪の毛を拭くとか乾かすという概念はないのですか?」
「ちゃんと拭いたし」
「全然拭けてませんてば。
それとも、御曹司さまの髪を整えるのは"爺"のお仕事ですか?」
「俺に専属のお付きはいない。櫂が特別対応」
「じゃぁ毎晩それですか?
ちょっと考えたほうがいいですよ」
「別に不便してないし」
「きちんと乾かさないと、その癖っ毛が余計目立ちますよ。まあ、私目線ではフワフワの髪が天使みたいで可愛らしいからいいですが。
あ、今度金髪にしてみては?」
「え、やだよ。ただでさえ茶色くて困ってる」
「それ地毛なんですか?」
「そうだよ」
「ふうん、弟も色素が死んでますしね。
元々色素薄めの家系なんですかね」
「知らねー」
「とりあえず、そこに腰を下ろして」
満はそう言いながら、ダイニングの椅子に座った航の髪を面倒見よく拭いてやる。
「けれど、元々瀬戸さんは貴方のお付きでしたよね?」
タオルオフが終わったところで思い出した様にそう言うと、航は頬杖をついて返す。
「瀬戸を知ってるのか」
「有能な執事だと有名ですよ」
「確かに瀬戸は"出来る"よな〜。
うちに勤めて長いし、家の事なら何でも知ってるよ。言う通り、瀬戸は元々は俺の世話役だったんだ。櫂が生まれてから兄弟付きになったけど、あいつの方が心も体も弱かったから、結局櫂専任になったんだよ」
「へえ、貴方もあんなに懐いてたのに」
「まあ、俺は心身共に丈夫だからな。
というか、お前、何をどこまで知ってるんだ?」
「嫌でも目につくんですよ、貴方は。
パーティでも何でも、いつも主役なんですから」
「ううん、そうなのか……?
気をつけないとだなあ」
「ええ。
弱みを握られると大変なことになりますよ」
「お前が言うなよ」
ふくれ面で航は返すが、満は寧ろご機嫌そうにその髪を拭き終わると、背をトンと叩いた。
「さて、どこがいいですか?」
「は?何が?」
「これからセックスをする場所です」
「お前さ、その情緒の無い言い方何とかならないのか」
「他に何と?性交?交尾?」
「いや……もういい……」
「そうですか。
ベッドでも、そこのソファーでも。
キッチンでもいいですし、何ならバルコニーでも」
「バッ、バルコニー!?!?」
「おや、そうですか。結構積極的なんですね……」
「違う違うちがーうっ!」
リビング繋ぎのバルコニーの方へと続く掃き出し窓に向かう満を思い切り引っ張って止め、航は叫ぶ。このマンションはバルコニーが大通りに面している、とんでもない話だ。
正直どこでもやりたくはないが、それは叶わない。だとしたら、選ばせてくれるならどう考えても一択だ。
「べ、ベッド!ベッドがいい!」
「えー」
「聞いておいてなんだよ!」
「はあ、わかりました。
では今日はベッドで抱き潰すことにします」
「お手柔らかに頼むよ……」
「では」
「?」
はい、と目の前に差し出された満の手とその顔を、キョトンとしながら航は交互に見やる。
するともう一度催促するようにその手が揺れたので、自分の手を重ねた。そのままぎゅっと握られる。思いの外温かい手だ。
寝室までの短い間、そうやって手をつなぎながら歩くと、航は僅かに胸が高鳴ったのを感じた。
いや、おかしい、おかしい。
絆されている場合じゃない。
こいつは卑怯な手で自分を陥れた悪いやつだ。
そして、これから握った弱みを使って自分を犯そうとしている最低なやつなんだ。
きっと今日もひどい目に遭わされるのだろう。
ベッドに座るように促された航は、緊張した面持ちで満を見やる。
彼は先日より増設されたビデオカメラの位置を合わせていた。また撮影する気だ、信じられない。
一通りセッティングが終わると、満は航にまた一つ籠を渡してきた。
蓋を開けると性器を型どったグロテスクな性具とローションが入っていたので、航は言葉を詰まらせる。
「私もシャワーを浴びてきますから、それで十分に解しておいてくださいね。
でないと痛い思いをすることになりますよ。
今日は薬を使っていませんから」
籠の中を見たまま硬直している航の頭を満は優しく撫でると、ドアの方へと赴く。
「待って、や、やり方がわからない」
慌てて航がその手を掴むと、満は目を細め見下ろしながら言う。
「その胸のものはただの板ですか?」
自らスマートフォンで調べろと言うことだ。
航はカッと顔を赤くする。
「ああ、そうだ。射精は禁止ですよ。
あくまでも準備ですから」
「なっ、尻いじって射精するわけないだろっ」
「先日の感じからすると……」
「なんだよ」
「いえ、薬のせいだったということにしておきましょう」
満はそう言うと、くつくつと笑う。
そして膨れた航にヒラヒラ手を振り、そのまま部屋を後にした。
ぽつんと一人取り残された航は、箱の中身を前に固まっている。
準備は、本当に必要だろうか。
こんなもので自分の尻を自らどうにかするなんて抵抗しかない。
しかし、やらないと痛い思いをすると満は言っていた。痛いのだけは嫌だ、絶対に嫌だ。
ドッドと心臓が鳴る。
ゴクンと唾を飲み込んで、航は気持ちを固めた。
そしてスマートフォンを取り出すと、とりあえず検索をしてみる。
その検索ワードすら生々しくて目をそらしたくなるが、やるからにはきちんとしないと気が済まない。そんな自分の性分が嫌になるが、仕方がない……が。
「うう、まじか……」
関連サイトを三つ程確認し、一通りのやり方を把握した航は完全に退いていた。こんなことがなければ確実に踏み入れることのなかった世界だ。
しかし、いくら退いたところでやらねばならぬことに変わりはない。
航は恐る恐るズボンを下げる。
対象がアナルなので、全て脱がないと出来そうにない。ためらいつつもそうして、ローションを手に出した。自分で触るのは初めてだ。本当にぬるぬるしているのだなと改めて他人事のように思った。
背をヘッドボードに預けながら僅かに足を開くと、後孔へと指を這わせた。
先ほど風呂で用意をしたので、思いの外そこは柔らかい。まずは縁の辺を軽く撫でると、孔が収斂
する。その瞬間、奥のほうがズクンと疼いたので
一瞬指を離す。
ぎゅっとアナルが締まったのを自覚する。
内壁がひくひくと動いている気がする。
航はゴクンと唾を飲み込んで、もう一度孔に触れた。そこはいとも簡単に指の先端を飲み込み、もっともっとと強請るように収斂する。
やはりさっきと同じ様に奥のほうがぞわぞわと疼いた。
それと同時にそこが熱を帯びてくる。
先日の快楽が脳に蘇った。
すると余計に奥がムズムズしてくる。
「うぅ……」
認めたくない、そんな思いと、快楽を欲する体の率直な反応に戸惑いながら、航はもう一本指を挿入した。
ローションの力を借りて、ちゅくちゅくと軽く挿出を繰り返しながら解していく。
「あ、あ…っ」
指が擦れるたびにビクビクと腰が震える。
一番ムズムズしている箇所が前立腺だとわかるから、航は敢えてそこを外して刺激をしていたのだが、とうとう我慢できなくなってきた。
欲しい、欲しいとそこを中心に内壁がビクビクと震えている。
けれどもそれを認めたくなくて、航は蹲った。
自分を抑える自信がなくなって、勢いよく指を引き抜く、が。
「ぐ……っ」
航は唐突に訪れた射精欲を腹に力を込めて何とか抑え込んだ。欲が落ち着くように、その態勢のまま大きく深呼吸をして整える。
「はー…」
ゆっくり体を上げてペニスを確認する。
カウパーがかなり出ているが射精はしていない、セーフだ。
航は再びヘッドボードに背を預けながら、次の手順を横目で確認する。
もう一度指を挿入すべく、アナルに先ほどと同じ様に指を這わせた。
ぬるぬるになってひくつくその孔と、指が届く範囲はかなり解れているような気がするが、これでもまだ足りないのだろうか。初めてなのでよく具合がわからない。
そういえば、満にされた時はもっと奥までされた。だとすると、もう少し奥まで解した方が良いのだろうか。
しかしこれ以上指は届かない。
そう考えていると、ふと性具の方が視線に入った。満が何の意味もなくこれをおいていくはずがない、そういうことか。
航はそれを取り出して、しげしげと眺める。
改めて見てみても、やはりグロテスクな代物だ。色こそピンク色だが、形は完全に性器を模している。下にスイッチがあったのでオンにしてみると、急に震動し始めたので思わず落とした。
慌てて拾い上げてオフに戻す。
航は戸惑いながらとりあえずローションをそれに垂らした。
試しにその先端をアナルに押し当ててみる。
ちゅっとキスをするように孔がそれに吸い付く。
先ほどと同じ様に、奥が疼き始める。
"これ、きっと挿入っちゃうな"
その自分の体の反応で、航は察してしまった。
深いことを考えるのを止めて、ゆっくりそれを挿入していく。すっかり解れた入口は、見立て通り難なくそれを飲み込んだ。
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